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2020年6月 5日 (金)

A.M.Jacobs,S.Schuster,S.Xue & J.Lüdtke(2017).「What’s in the Brain That Ink May Character...:A Quantitative Narrative Analysis of Shakespeare’s 154 Sonnets for Use in (Neuro-)Cognitive Poetics」を読む(『Scientific Study of Literature』)

シェイクスピアの154のソネットを分析対象として、これを今後量的な観点から様々に研究していくための予備調査や論考がなされています。量的研究の有効性、さらに機械学習との組み合わせへの期待などが議論されています。なお、著者らはこれまでの文学批評を否定しているわけではなく、むしろこれらの先行研究と相補的であると考えています。

Jacobs, A. M., Schuster, S., Xue, S., & Lüdtke, J. (2017). What’s in the brain that ink may character...:A quantitative narrative analysis of Shakespeare’s 154 sonnets for use in (Neuro-)cognitive poetics. Scientific Study of Literature, 7 (1), 4-51.

概要

本研究で示されている事柄を以下に列挙しておきます。調査方法に関する詳細等は本論文を直接ご参照ください。

  • より長い文章を対象に使用されてきたCoh-matrixといったreadabilityの指標はシェイクスピアのソネットに対しても使用できそうである
  • すでに先行研究でsurprisalという要素(読者の予想に反したような語の使用)は読解時間や眼球の動き、N400という事象関連電位の発生と関係があることが知られているが、シェイクスピアのソネットにおいても、この値が大きくなると読みにくくなり、ナラティブ性も低下し、さらにテクストの一貫性も下がるようであった。
  • ただし、surprisalの値が大きいソネットは、統語が単純で、具体的な内容の単語が多く用いられていた。上記2点目とトレードオフの関係になっているのかもしれない(テクストがあまりにも難しくなりすぎることを避けている可能性がある)。ただし、これはシェイクスピアのソネットだけに見られる特徴なのかどうかは今後の研究で判断されなければならない。
  • シェイクスピアのソネットは大きくyoung manをテーマとした作品群と、the dark ladyをテーマとした作品群に分かれ、後者の作品群は前者の作品群よりもマイナスのムードの反応を誘発するようである。
  • ソネットのthematic richness indexの値が高ければ高いほど、読者はその作品を好み、肯定的なムードの反応をする傾向がある
  • Semantic association potentialの値が高い作品は好まれる傾向があり、surprisalが低く、かつ読みやすさが高くなる傾向がある
  • 各ソネットにおいて、一般的には作品が進むにつれて簡単になっていく(徐々にナラティブ的になり、統語が単純になり、結束性が高まり、surprisalが低くなり、semantic associationの数が減り、新出語の数が減る)。ただし、もう少し細かく見ると、第2連は第1連より難しかったり、第3連より簡単だったりするケースも見られた。
  • これまでに得られた量的なデータを使って機械学習を行うと、ソネットを大きくyoung manをテーマとした作品群と、the dark ladyをテーマとした作品群に分けることができた。このように、量的研究と機械学習を結びつけることは文学研究に有益に資すると思われる。

また、著者はこのような量的な研究は様々な予測に役立てたり、詩の分類、作品の比較、作品内の構造分析(連同士の比較など)に役立てることができるのではないかとしています。一例として、著者らの研究モデル(Neurocognitive Poetics Model)では、surprisalforegrounding)が高いソネット、行、語は、好まれ、眼球のサッカードが小さくなり、眼球の静止時間が長くなることが分かっているそうで、近年短編小説でも同じ傾向が確認されたとのことです。シェイクスピアのソネットでも同じことが生じるのかどうか、といった研究課題の設定が示されていました。

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