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2020年6月 9日 (火)

M.Siefkes(2017).「Perceptual Qualities of Literary Style」を読む(『Scientific Study of Literature』)

著者は、文体とは結局読者による知覚や評価に依存するところが大きいという立場から、一般的な読者(母語話者)は、異なる潮流の作品(モダニズム作品とポストモダニズム作品)の文体の違いをどのように知覚しているのかが調査されています。

なお、調査をするにあたって、著者は文体について以下のように定義を行っています。

"Style consists in all specific characteristics in writing or speech of a person, or a group of persons; styles can be investigated on a continuum of scale, from individuals to large groups, where larger groups will usually have fewer characteristics in common. Although style influences measurable qualities of texts (such as sentence length, size of vocabulary, or complexity of syntax), it is experienced by readers in the form of perceptual qualities, such as clarity or elegance." (p. 54, emphasis in original)

Siefkes, M. (2017). Perceptual qualities of literary style. Scientific Study of Literature, 7 (1), 52-78.

概要                                                                                                                                      

調査の詳細は省略しますが、クラウドソーシングで募集した英語母語話者649名に対して、モダニズム作品(Ernest HemingwayA Farewell to ArmsAldous HuxleyAfter Many a Summer)とポストモダニズム作品(Bret Easton EllisAmerican PsychoDouglas CouplandMicroserfs)を1つずつ読ませて、semantic scalesに回答させることで調査が行われています。この調査で得られた結果は以下の通りです。

  • モダニズム作品は、coherentclearsimpleformalrationalseriousと評価される一方、ポストモダニズム作品についてはincoherentornamentalcomplexcolloquialemotionalplayfulと評価され、あるジャンルの作品はある一定の文体で知覚されるようである。
  • 上記の結果は、作品を読む際に作品の文体や機能に着目させることを促した場合と、情意面や読者の個人経験に着目させることを促した場合とで、変化は見られなかった(つまり、このような方向付けよりもジャンルの違いの方が読者の文体知覚の違いに大きく影響を与えていた)
  • ジャンルの違いに関わらず、coherentまたはplayfulと知覚される作品は、読者の好みの度合いも高かった。
  • 特にincoherent vs. coherentformal vs. colloquialというsemantic scaleは、2ジャンルの文体の違いの知覚をうまく言い当てているようであった。

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2020年6月 5日 (金)

A.M.Jacobs,S.Schuster,S.Xue & J.Lüdtke(2017).「What’s in the Brain That Ink May Character...:A Quantitative Narrative Analysis of Shakespeare’s 154 Sonnets for Use in (Neuro-)Cognitive Poetics」を読む(『Scientific Study of Literature』)

シェイクスピアの154のソネットを分析対象として、これを今後量的な観点から様々に研究していくための予備調査や論考がなされています。量的研究の有効性、さらに機械学習との組み合わせへの期待などが議論されています。なお、著者らはこれまでの文学批評を否定しているわけではなく、むしろこれらの先行研究と相補的であると考えています。

Jacobs, A. M., Schuster, S., Xue, S., & Lüdtke, J. (2017). What’s in the brain that ink may character...:A quantitative narrative analysis of Shakespeare’s 154 sonnets for use in (Neuro-)cognitive poetics. Scientific Study of Literature, 7 (1), 4-51.

概要

本研究で示されている事柄を以下に列挙しておきます。調査方法に関する詳細等は本論文を直接ご参照ください。

  • より長い文章を対象に使用されてきたCoh-matrixといったreadabilityの指標はシェイクスピアのソネットに対しても使用できそうである
  • すでに先行研究でsurprisalという要素(読者の予想に反したような語の使用)は読解時間や眼球の動き、N400という事象関連電位の発生と関係があることが知られているが、シェイクスピアのソネットにおいても、この値が大きくなると読みにくくなり、ナラティブ性も低下し、さらにテクストの一貫性も下がるようであった。
  • ただし、surprisalの値が大きいソネットは、統語が単純で、具体的な内容の単語が多く用いられていた。上記2点目とトレードオフの関係になっているのかもしれない(テクストがあまりにも難しくなりすぎることを避けている可能性がある)。ただし、これはシェイクスピアのソネットだけに見られる特徴なのかどうかは今後の研究で判断されなければならない。
  • シェイクスピアのソネットは大きくyoung manをテーマとした作品群と、the dark ladyをテーマとした作品群に分かれ、後者の作品群は前者の作品群よりもマイナスのムードの反応を誘発するようである。
  • ソネットのthematic richness indexの値が高ければ高いほど、読者はその作品を好み、肯定的なムードの反応をする傾向がある
  • Semantic association potentialの値が高い作品は好まれる傾向があり、surprisalが低く、かつ読みやすさが高くなる傾向がある
  • 各ソネットにおいて、一般的には作品が進むにつれて簡単になっていく(徐々にナラティブ的になり、統語が単純になり、結束性が高まり、surprisalが低くなり、semantic associationの数が減り、新出語の数が減る)。ただし、もう少し細かく見ると、第2連は第1連より難しかったり、第3連より簡単だったりするケースも見られた。
  • これまでに得られた量的なデータを使って機械学習を行うと、ソネットを大きくyoung manをテーマとした作品群と、the dark ladyをテーマとした作品群に分けることができた。このように、量的研究と機械学習を結びつけることは文学研究に有益に資すると思われる。

また、著者はこのような量的な研究は様々な予測に役立てたり、詩の分類、作品の比較、作品内の構造分析(連同士の比較など)に役立てることができるのではないかとしています。一例として、著者らの研究モデル(Neurocognitive Poetics Model)では、surprisalforegrounding)が高いソネット、行、語は、好まれ、眼球のサッカードが小さくなり、眼球の静止時間が長くなることが分かっているそうで、近年短編小説でも同じ傾向が確認されたとのことです。シェイクスピアのソネットでも同じことが生じるのかどうか、といった研究課題の設定が示されていました。

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