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2020年5月 7日 (木)

J.M.Guy,K.Conklin,& J.Sanchez-Davies(2018).「Literary Stylistics, Authorial Intention and the Scientific Study of Literature: A Critical Overview」を読む(『Language and Literature』)

文学理論の概論書などを読むと、作者や作者の意図について考えることは非常に不適切ないように思えてきますが、一般的な読者の読解プロセスを見る上では、作者や作者の意図はメンタル・モデルの1つであり、読者自身がそれらについて考えることは極めて自然なことと言えます。したがって、作者や作者の意図は研究されるべき重要な側面であるとして、その研究の必要性及びその研究方法について考察されています。著者らは、作品の深い意味を考える上で作者について考えることは必須であるとも述べています(p. 206)。近年の研究のレビュー論文となっており、多くの情報を得ることができます。

Guy, J. M., Conklin, K., & Sanchez-Davies, J. (2018). Literary stylistics, authorial intention and the scientific study of literature: A critical overview. Language and Literature, 27 (3), 196-217.

概要

作者や作者の創造性、作者の意図については主に2つのアプローチから研究が試みられているようです。1つ目は、Sotirova (2014) に見るように、作者によるlinguistic choiceという観点(さらに、コーパス文体論などに見る言語パターンという観点)からの分析です。もう1つは、literary biographylife-writingbook-historytext-editingliterary recovery projectsといった研究によるアプローチで、インタビューや写真などの伝記情報を使った分析(テクスト外の情報に基づいた分析)です。しかしながら、両者はともに重要な情報であり、両者がどのように相互作用しながら作者、作者の創造性、作者の意図などが読者の中に作り上げられるのか、その関係性についてはまだ研究が不足しているとしています。

"the role of inferences about authorial creativity, and how they are influenced by information about a biographical author in the kinds of 'interpretive moments' which are typically the focus of linguists' descriptive attention (see Hakemulder and van Peer, 2016: 191), has been largely neglected by both literary stylistics and empirical studies of literature." (p. 200)

著者らによると、近年こういった問題に取り組もうとしている研究も現れてはきているそうですが、まだ不十分であるとして批判的な考察が加えられています。

この問題に積極的に取り組もうとしている分野の代表例として認知詩学があります。認知詩学では、作者の創造性や意図はmind-modellingという観点から検討され、

"Mind-modelling, then, is 'the sort of readerly-located framing of authorial intention' that is elsewhere referred to as 'hypothetical intentionalism' (Stockwell and Mahlberg, 2015: 132, see also Irvin, 2006; Lahey, 2016: 54-56)" (p. 201)

"they [these readerly creative concepts of the author and authorial intention] are understood as 'mental representations' that are 'co-produced in the mind of the reader by the author' choices in providing textual patterns'." (p. 202)

と説明されています。しかしながら、テクストの言語的パターンなどがベースとなって作者の意図といった意味が生成されるという前提に立っており、果たして本当にそのように前提的に考えてよいのか検証をしていないという問題点があるとしています(p. 206)。さらに、実際の読者というよりは、特定の理想的読者を想定しているという問題点もあるようです(p. 204)。

次に、著者は今後の研究が進むべき方向性を示していきます。繰り返しになりますが、著者らは、作者について考える上で、認知詩学のように言語的パターンだけを考えているのではだめであり、読者がその読解に持ち込む様々なテクスト外的情報にも着目すべきと考えています。さらに、両者がどのように影響し合って作者、作者の創造性、作者の意図が読者の中に作り上げられるのか調べる必要があるとしています。(作者の意図についてどのように取り組む必要があるのか、pp. 206-207にかけて説明されており、作者の意図を扱いたいと思っている人には大変参考になると思います)

また、近年進められている脳科学的研究やアイ・トラッキング研究は大変参考になりますが、研究方法上、どうしても不自然な状況での読解を調査する形になってしまうことも指摘されていました。

さらに、本題からは逸れますが、詩を使った調査の方が散文を使った調査よりも多い理由に関して興味深い指摘もなされています。

"To date, most experimental studies of literature take as their subject poetry rather than prose, as short lyrics make it considerably easier to achieve ecological validity when studying the experience of reading the text of an entire literary work." (p. 212)

一般的な読者の文学読解を研究する上では、作者という概念について扱うことは避けられないと思います。そのような研究の理論的基盤を与えてくれる貴重な論文と言えます。

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