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2019年11月28日 (木)

R.Pope(1995).『Textual Intervention: Critical and Creative Strategies for Literary Studies』 を読む(Routledge)

教育文体論が自身による最大の教育貢献の成果としてしばしば言及している書き換え活動(テクストへの介入)について、詳細に扱われている一冊です。

Pope, R. (1995). Textual intervention: Critical and creative strategies for literary studies. London: Routledge.

概要

バフチンらの理論に基づきながら、テクストをディスコースとしてとらえた上で、テクストの主人公や語り手を脱中心化、再中心化(別のマイナーな人物を物語の中心に据えてみるなど)する形で、様々な書き換えができ、それが学習者の文学作品の理解を深めていくことが、豊富な例とともに示されています。実践書ですので、理論的には少しとらえどころがない(あまり整理して書かれていない)印象を受けるかもしれません。理論についてはあまり気にせずに、実践書として読んでいって差し支えないと思います。Robinson CrusoeHamletなど、様々な関連するテクストを使って面白い指導例が示されています。著者は、textual(言語的な観点)、contextual(テクストの社会的背景からの観点)、cross-textual(他の様々なテクストとの関テクスト的な観点)と、様々なレベルに基づいた書き換え活動を示しています。また、最終章では、本書の背景にある理論のリスト及び文学作品のテクスト分析に使えるチェックリスト、書き換え活動のタイプの一覧が示されています。場合によっては、最終章から読んだ方が分かり易いかもしれません(それより前の章では、様々な要素が縦横無尽に出て来て、自分はどこに進んでいるのか見失いがちになる傾向がありますので)。

以下、本書の章立てです。24章にかけて、ミクロレベルからマクロレベルへ徐々に議論の中心が移っていきます。なお、第1章は、本書の縮図となっており、著者の実際の実践結果を元にしながら様々な活動が提示され、本書全体のイメージが理解できるように構成されています。この章で示されている広告を使った実践は、教育文体論では有名ですね。

  1. Preludes
  2. Subjects and agents; Selves and others
  3. From Narrative to narration and beyond
  4. Dialogue, discourse and dramatic intervention
  5. Review of theories and practices

文学教育のために執筆された文献ですが、英語教育にも学べるところが多くあります。また、文学作品だけでなく、論説文や会話文の指導などについても有益な示唆を得ることができると思います。

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2019年11月25日 (月)

D.Castiglione(2017).「Difficult Poetry Processing: Reading Times and the Narrativity Hypothesis」を読む(『Language and Literature』)

poetic difficulty(詩の難しさ)について扱った研究が体系的にレビューされ、さらに選択体系機能文法の枠組みに基づいた上で、詩に関する "linguistic aspect of difficulty" の一覧が整理されています。そして、その中で取り上げられていたlack of narrativityに注目し、この要素が本当に読者に難しさを感じさせるのかどうか検証されています。なお、著者はpoetic difficultyは読者とテクストの相互作用の中で生じるものだという立場を取っています。

Castiglione, D. (2017). Difficult poetry processing: Reading times and the narrativity hypothesis. Language and Literature, 26 (2), 99-121.

概要

著者は、poetic difficultyに関して、typological approachesstylistic approachesreception-oriented approaches3つの立場を紹介し、それぞれを詳細にレビューしています。

また、詩の難しさに関してoffline difficulty(テクストの字義的な意味を理解する際に感じる困難さ)とonline difficulty(詩の全体を読み終わった後に、その作品全体が伝えようとする意味を考える際の難しさ)を区別する必要性を指摘し、本研究では前者に着目がされています。なお、これら2種のpoetic difficultyはお互いに独立したものと考えられています(pp. 115-116)。

調査に際して、poetic difficultyの指標として読解時間が用いられています。読解時間については、online difficulty(難しさの指標)とtime investment(よりよい解釈を目指して時間を費やす度合いの指標)という2つの指標となりえることが予想されます。ですが、著者が事前に行ったインフォーマルな調査では、読解時間online difficultyの指標と解釈できるという結果を得ており、今回の調査でも読解時間をもとにpoetic difficultyonline difficulty)について考察をすることに決めたとのことです。

調査では、著者はlack of narrativityの程度が異なるテクストを用いて、reading timeとの関係を見ました。その結果、narrativityという特性(部分的にnarrativeと類似しているかどうかという特性(作品全体が物語的でなくてもよい))はpoetic difficultyに大きく影響を及ぼすようで、lack of narrativityの程度が高くなればなるほどreading timeが伸びるという結果を得ました。

本論文で提示された "linguistic aspect of difficulty" 一覧はもちろんのこと、調査で用いられた調査用紙や調査方法など、いずれも私自身の研究にとても役立つものでした。また、調査参加者に実際に詩を読んでもらう際の指示(「極力自然に読んでください」)もユニークであると思いました。大いに参考にさせてもらいたいと思います。

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2019年11月21日 (木)

S.Whiteley & P.Canning(2017).「Reader Response Research in Stylistics」を読む(『Language and Literature』)

文体論の中で読者の反応の研究を取り入れていくことの重要性が議論されています。「Stylistic Approaches to Reader Response Research」という特集号のイントロの論文で、この冊子に掲載されている論文の要約も付されています。

Whiteley, S., & Canning, P. (2017). Reader response research in stylistics. Language and Literature, 26 (2), 71-87.

概要

文体論はこれまで読者の重要性(ただし、多くは理想的な読者でしたが)を立場上は認めてきた一方で、それを実際に研究の中に取り入れることについてはあまり行われていないと著者らは指摘しています。著者らは、読者(特に実際の読者)の反応を研究の中に取り込むことで文体論研究を一層進展させることができると主張しています。また、文学読解における読者反応の研究の歴史的レビューも含まれており、勉強になります。

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2019年11月14日 (木)

D.S.Miall(2016).「Literariness」を読む(R.H.Jones(編),『The Routledge Handbook of Language and Creativity』,Routledge)

文学性に関する議論(文学性を主張する立場とこの概念に対して批判的な立場両方)のレビューがされています。ロシア・フォルマリズム以前の芸術に関する考え(芸術においては処理労力がかからないほどよいとするHerbert Spencer (1882)など)も紹介されており、貴重です。

Miall, D. S. (2016). Literariness. In R. H. Jones (Ed.), The Routledge handbook of language and creativity (pp. 191-205). New York: Routledge.

概要

著者はこの論文で次のように主張します。

"there is no specific set of features to which we can attribute literariness. ... literariness is a product of the interaction between a literary text, characterized by stylistic or narrative features, and an attentive reader, who is led to experience empathy or absorption." (p. 191)

"To put it another way, literariness includes recognition of foregrounding and can, at the same time, raise awareness of the phenomena of the external world – in the case of the present studies, the experience of immigrants and the transience of love. Literariness thus involves both a feeling for the textures and dynamics of the literary work, and an immersion in the ambivalence of the human predicaments that are represented in it." (p. 204)

ただし、Hakumulder (2004) などの実証的な研究を元にして、前景化された表現については、文学作品と呼ばれるテクスト内の方がそうでないジャンルのテクスト内においてよりも文学性を引き起こす傾向が強いことが指摘されています。単に前景化された表現がテクスト内に存在していれば自動的に読者に文学性を引き起こすわけではなく、"text features [in literary texts] are responsible for triggering
conventions [or literariness]" (p. 203,
カギカッコ内はこの記事の著者による)とのことです。

また、Shklovskyは、Jakubinskyに言及しながら、異化は反復でも生じると述べていたとのことです。見落としていました。

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2019年11月12日 (火)

G.Hall(2018).「Literature, Creativity and Language Awareness」を読む(P.Garrett & J.M.Cots(編),『The Routledge Handbook of Language Awareness』,Routledge)

表題にある文学、創造性、言語意識の関連について、現状および課題が整理されています。また、文学作品を文体論的に扱うことにより、学習者の創造性や言語意識を高めることができるのではないかとの見解が示されています。

Hall, G. (2018). Literature, creativity and language awareness. In P. Garrett & J. M. Cots (Eds.), The Routledge handbook of language awareness (pp. 141-154). New York: Routledge.

概要

著者は、文学、言語意識、創造性について、先行研究を参照しながら定義を示していきます。文学については、次のような定義が示されていました。

"literature is valued creative work in language" (p. 143, emphasis in original)

言語意識については、言語そのものだけでなく、その理解プロセスも包含したものとして捉える必要があることが強調されていました。

また、創造性については次のように述べられています。

"creativity is not a property or possession of an individual or of a text but a jointly constructed emergent social phenomenon." (p. 145)

さらに、Boden (2003) は、創造性について以下の3つがあるとしており、著者は "I would submit that literary texts can both illustrate and prompt reflection as well as practice in all these three areas of creativity." (p. 145) と述べています。3つの創造性とは以下の通りです。

  1. combinatorial (new combinations of known elements)
  2. exploratory (taking existing ideas or practices further)
  3. transformational (a new practice or idea which completely changes previous understandings or practices) (p. 145)

ただし、これまでの文学史の歴史などを鑑みると、創造性については、以下のような面も否定できないともしています。

"Creativity, like literariness, is socially and culturally relative. Innovation that is not valued by those in positions of power is not found creative and will disappear or at least lie dormant till more favourable conditions develop in which the value of the innovation can be recognized." (p. 147)

また、文学教材には、様々な特色ある言語表現が含まれています。それらの表現は文学作品にのみ観察されるというわけではありませんが、文学作品でもっとも頻繁に観察されるということも事実であり、"Such texts can be of the greatest value to the language awareness development of readers, particularly if awareness can be made more conscious, more consciously examined, and explored in class and through assignments." (p. 148) と述べています。

さらに、creative writingの実践についても言及し、現在この種の実践は広く行われているものの、ここに文体論的な知見を入れると、より効果的な教育実践となるのではないかとの意見が示されていました。

加えて、近年急速に発達しつつあるマルチメディア的な文学作品も積極的に扱うことで、言語意識の高揚にさらなる効果が見込めるのではないかとの指摘もなされていました。

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2019年11月 7日 (木)

C.Emmott & M.Alexander(2016).「Defamiliarization and Foregrounding: Representing Experiences of Change of State and Perception in Neurological Illness Autobiographies」を読む(V.Sotirova(編),『The Bloomsbury Companion to Stylistics』,Bloomsbury)

脳神経疾患を患った人の自伝の中に様々な文学的表現が観察されることが示されています。

Emmott, C., & Alexander, M. (2016). Defamiliarization and foregrounding: Representing experiences of change of state and perception in neurological illness autobiographies. In V. Sotirova (Ed.), The Bloomsbury companion to stylistics (pp. 289-307). London: Bloomsbury.

概要

著者らは、脳神経疾患を患った人の自伝に文学的な表現が見られる理由を次のように説明しています。

"Medical autobiographies can illustrate defamiliarization because, during serious illness, writers may view the most mundane aspects of everyday life, the people around them and their own bodies in an entirely different way from normal because of the effects of illness. This can include representing unusual states of mind ('mind style', Fowler 1996) such as extreme disorientation. Also there may be a heightened sense of engagement with the world felt by those who are recovering from critical illness or who are terminally ill (another type of 'mind style')." (p. 290)

患者の1名が "to see something for the last time can be as intense as seeing it for the first time" と述べていたことが紹介されていますが(p. 302)、非常に印象的でした。

著者らは4名の患者による自伝をデータとして、そこにどのような文学的言語表現が見られるかを記述しています。詳細は割愛しますが、この論文で取り上げられていたのは、sentence fragments(不完全文)、repetitionodd punctuationunder-specificationover-specificationinteresting vocabulary and grammatical choicesstriking similes and metaphorsrecurrent thematic motifsunusual narratological presentationunusual textual layoutsでした。

著者らは本論文を締めくくるにあたって以下のように述べています。なお、引用中に現れるLindquist氏は、本研究のデータとして用いられた自伝の著者の1人で末期症状を患っていた方です。

"Illness and disability make the authors view the world in a fresh light. As Lindquist observes, 'Death brings me closer to life' (p. 173). The authors appreciate the minutiae of existence more than they have ever done before, when they were too busy with their careers to notice it. These texts symbolize defamiliarization since they provide the classic reappraisal of life that is symptomatic of both great literary writings and, in Lindquist's case, the realization that life may be slipping away from the writer. Foregrounding provides a range of techniques to reflect changes in states and perceptions and to convey the reappraisal of reality by linguistic means. These narratives provide insistent voices that shout out in adversity.' (p. 304)

なお、異化や前景化に関する先行研究を概観する中で、文学的言語表現が文学読解に重要な働きをしていることを示した先行研究が紹介されています。この記事では省略しますが、van Peer (1986)Sanford & Emmott (2012)Hakemulder (2004)が紹介されていました。

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2019年11月 6日 (水)

R.ヤーコブソン・L.ウォー(1979/1986)『言語音形論』第4章(「言語音の魔力」)を読む(岩波書店)

音象徴の例が様々なジャンルから収集され、恣意性への反例が数多く提示されています。de Saussureもこの問題には曖昧な立場を取らざるを得ず、『一般言語学講義』では恣意性を強調する一方で、他方ではアナグラム研究に従事することになったのです(pp. 234-235)。音象徴という現象について、様々なジャンルの例から幅広く迫った貴重な文献だと思います。また、詩とは何かということを考える上でも示唆に富む指摘がされています。 

R.ヤーコブソン・L.ウォー(1986).『言語音形論』(松本克己(訳)).岩波書店.(原著は1979年出版)

概要

著者らは、音象徴の研究が19世紀以降からどのように発展してきたのかをGeorg von der GabelentzHugo SchuchardtMikolaj KruszewskiAlbert WellekMaurice GrammontOtto JespersenEdward Sapirをはじめとして、様々な研究者に言及しながら整理をしています。

そして、共感覚、語の類縁性、アプラウト、神話・歌謡、タブー、異言、詩、言葉遊びを例に、(時に類似した)音象徴現象が見られることを様々な言語からの事例を元に例証しています。最後には、e. e. cummingsの "love is more thicker than forget" に見られる音声分析(音象徴が中心ですが、その過程で韻の分析など非常に細かい分析が実践されています)も示されています。

著者らは、異言の例を分析する中で、[ f ][ n + t/d (+r) ]といった音構造がよく用いられることを指摘しているのですが、さらにその中の[ nd ]といった音構造が言葉遊びでも散見されることを指摘しており、個人的には大変興味深く感じました。

また、著者らは詩における音の重要性について、以下のように述べています。

「詩歌は、書かれたものであれ口頭であれ、経験を積んだ職業詩人の所産であれ子供の作であれ、また日常語に同調的であれ反撥的であれ、そこには独自の音形と文法構造が呈示されている。とりわけ、上位の文法的単位に対する言語音の受動的、散文的な服従は、時代や文学的流派や一時の支配的スローガンにもかかわらず、それのみではけっして詩歌の職務を全うし得ない。言語音は、詩歌において必然的にいっそう明確な自律的任務を担うべきであり、また詩的意味と音の絆は、言語の平凡な日常的使用がその慣用的単位の中で必要とする通常の役割には還元され得ない。詩歌の中で、言語音はその固有の意味機能を自発的かつ直接的に発揮するのである。(pp. 235-236

さらに、一般的に詩的創造が目指すところのものとして、以下の3点を挙げています。

  1. 言語メッセージの気の抜けた平板さと単調さを克服すること
  2. '曖昧性の除去'を目指す無益かつ不毛な試みを抑止すること
  3. 陳腐さの一切の混入から言語を開放してその想像力を確保すること(p. 245

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