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2018年4月13日 (金)

前田竜一(1992).「戦後高等学校用検定教科書におけるモームの取り扱われ方」を読む(『日本英語教育史研究』)

W. Somerset Maughamの作品の戦後の高等学校英語教科書での扱われ方が調査されています。論文末には平成3年まで、どの教科書にどの作品が掲載されたのか、データ一覧が示されており、資料的価値もとても高い論文です。

 

前田竜一(1992).「戦後高等学校用検定教科書におけるモームの取り扱われ方」.『日本英語教育史研究』,787-112

 

概要

著者の調査によると、Maughamの作品はHow to Appreciate Good English 2(昭和29年に検定を終えて、昭和3038年の間使われた)に掲載された “Sheppey”が最初であり、平成3年に至るまで計65種の教科書にMaughamの作品が掲載されてきたそうです。

 

年代別にMaughamの作品の掲載数を見てみると、昭和34年から掲載数が増加し、昭和57年まで常に教科書全体の中で7件以上の掲載を維持していたそうです。しかしながら、昭和58年以降は減少の一途をたどっているとのことでした(これは実用英語志向のあおりを受けたためであろうと分析されています)。特に “The Luncheon” “Books and You” の掲載数が群を抜いています。

 

論文中では、“The Luncheon” の各教科書における改作について詳細な検討が加えられています。その中で個人的にとても面白く感じたのは、長文の中に短文を急に挿入するというMaughamの文体技法が取り上げられている箇所です。原作においては、これは発想転換を表現するなどとても重要な働きをしているのですが、残念ながら教科書の方では段落構成が変えられるなどして、その効果が十分発揮できない形になっているとのことでした(しかも不自然な形にもなってしまっています)。

 

著者は、文学作品を教科書に掲載する上で、様々な制限があるのは十分に理解できるものの、その作品の本質や特徴を損なわない形での改作を行う必要があるとしています。今回の分析を通して、特にMaughamの作品に関して、以下のような指摘がなされていました(pp. 100-101)。

 

(1) 個々の作家における文学作品には、必ずそれぞれの文学的特徴がある。モームに限って言えば、それは<皮肉>にある。これがないとモームの作品とは言えなくなる。したがって教科書に採用する際、少なくとも<皮肉>は生かされるようにしなければならない。

(2) モームの文体の特徴は、慣用句の多用と長文の間に短文を置く変化にある。慣用句の多用は、読者に作品に対する親近感をもたせる。また、長文の間に短文を置くことは、発想の転換を読者に示す。したがって、これらの文体の特徴を無視した形でrewritingもしくは削除を行うと、モームの作品のもつ雰囲気を乱すことになる。

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