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2017年9月13日 (水)

久世恭子(2016).「精読の授業における文学的テクストの特徴-A Room of One's Ownに対する学習者の関心と反応-」を読む(斎藤兆史・北和丈・城座沙蘭・高橋和子(編),『英語へのまなざし―斎藤英学塾10周年記念論集』,ひつじ書房)

文学教材の使用が制限された環境で、いかに文学的要素を含んだ教材を利用し、学習者の能力を高めていくのかということが実践例とともに示されています。きわめて現実的な文脈での研究であり、とても勉強になります。この論文では、Virginia WoolfのA Room of One's Ownを文学的要素のある教材として選定し、その実践報告がなされています。

久世恭子(2016).「精読の授業における文学的テクストの特徴-A Room of One's Ownに対する学習者の関心と反応-」.In 斎藤兆史・北和丈・城座沙蘭・高橋和子(編),『英語へのまなざし―斎藤英学塾10周年記念論集』(pp. 317-344).ひつじ書房.

概要

この記事では詳細は割愛し、実践から導かれたこととして論文中で示されている事柄で特に重要と考えられる点を列挙したいと思います。いずれも教育的示唆に富んだ指摘です。

  • interpretationにもいくつかのレベルがある。(1) テクストの特定の箇所にのみ関わり文脈に沿って読めば決まった1つの答えに比較的容易にたどりつけるケース、(2) 抽象的な表現を用いてテクストの広範な内容を指していて、文字通りの意味を理解した上で文章の大きな流れをつかみ作者の指しているものを見極める必要があるケース、(3) ある出来事や事象などが象徴的に描かれ、作品全体の重要なテーマにつながっており、より深く広範な解釈が必要になるケース、が見られた。(p. 325)
  • 授業で学生に発表をさせたところ、授業の前半ではliteral comprehensionに関わるものが大半であったが、後半では意識的に解釈のレベルに目を向けることができるようになった(p. 330)。
  • 学習者はこの教材を難しいと感じていたが、同時に面白いとも感じていた(p. 332)。特に、精読を通して分かる喜びを感じていたようであった(p. 334)
  • 学習者は、この教材内の長い文の読解に取り組んだことで、文法力が向上したと感じているようであった(p. 333)。
  • 学習者は、この教材の学習を通して、外国の文化の学習機会を期待をしていたようであった(p. 333)。
  • 学習者は、この教材を読む上で、背景知識の必要性を感じていた(p. 334)。
  • 学習者は、現代の日常トピックを扱った文章よりも、古い時代の虚構の方が、テクストの内容を自分たちの問題として興味をもつことができたようであった(p. 335)。
  • 今回のような文学的な教材を扱う上では、まずは精読などを通して言語的な問題を解決し、そこから解釈や推論などの段階へ移行していくことが必須のようである(p. 336)

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2017年9月12日 (火)

高橋和子(2016).「「コミュニケーション英語Ⅰ」・「読むことを中心とした活動」と文学教材―物語文を中心に―」を読む(斎藤兆史・北和丈・城座沙蘭・高橋和子(編),『英語へのまなざし―斎藤英学塾10周年記念論集』,ひつじ書房)

現行の高等学校英語教科書(コミュニケーション英語Ⅰ)に含まれる文学教材の設問分析を通して、その問題点を指摘し、さらに文学教材を活かすための具体的な設問案が提示されています。非常に具体的な論文で勉強になります。
 
高橋和子(2016).「「コミュニケーション英語Ⅰ」・「読むことを中心とした活動」と文学教材―物語文を中心に―」.In 斎藤兆史・北和丈・城座沙蘭・高橋和子(編),『英語へのまなざし―斎藤英学塾10周年記念論集』(pp. 345-375).ひつじ書房.
 
概要
著者は学習指導要領での物語の記載について整理をした後、本論文における「物語」の意味合いを整理します。その上で、コミュニケーション英語採択率上位10種を対象に、文学教材を抽出した上で、Nuttall (2005) の枠組みを確認ののち、教科書内の文学教材に付されている設問を分析しています。著者は正課の教材と正課外の教材に分けて分析をしています。正課の教材に付されている設問を分析したところ、やはり推論問題をが少ないとのことです。
 
以上の議論を踏まえたうえで、著者は文学教材を活用するための設問例を示しています。詳細は省きますが、物語の基本要素に関する設問、物語の特色に関する設問、personal response (Nuttall (2005) の5つ目のタイプ)の活用、推論設問(Nuttall (2005) の3つ目のタイプ)の活用、が提案されています。特に推論設問に関しては、国語科教育におけるPISA型読解を目指した「解釈のアブダクション・モデル」を援用したものが提案されていました。
 
本章の最後の箇所では、物語の定義はあいまいにならざるを得ない点も指摘されていました。
 
著者は結論部分で、物語は「明示的な読み取りを行う活動が実践可能な教材であるとともに、推論を行ったり、自分の考えをまとめたりする活動にも適した教材である」(p. 373)と述べています。著者は、文学研究者に向けて、「文学教材を如何に読むべきかを検討し、同教材の特色を活かしながらも現場に即した授業案を1つ1つ提示していくこと」(p. 373)、「現行の検定教科書の中には、それと気づかぬうちに物語性が含まれた教材がある可能性を明らかにし、これらの物語性を活かした活動例を示していくこと」(p. 373)がコミュニケーション重視の英語教育に貢献することになると述べています。そして、このような取り組みが、ひいては「文学教材に対する学習者の意識を変え、様々な教材を通して英語を学ぼうとする姿勢を育むことに繋がっていくのではないか」(p. 373)と述べています。

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