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2017年4月10日 (月)

山田信也(1977).「英語教育における文学教育の諸問題」を読む(『大阪教育大学英文学会誌』)

文学教材の教養的価値及び異文化理解(思考様式)に対する価値に重きを置いた論考となっています。1971年改訂の高等学校学習指導要領に準拠した英語教科書における文学教材の情報も示されており(どの程度文学教材があったのか、どのような作家が人気があったのか)、資料的価値も高いです。

山田信也(1977).「英語教育における文学教育の諸問題」.『大阪教育大学英文学会誌』,22,91-106.

概要

著者は文学教材とは、教師及び生徒に感動を与えるものである必要があり、以下のような特性を備えているものがふさわしいと考えています(p. 98)。

  1. 社会性・人間性が表現されている
  2. 国民性・民族性が表現されている
  3. 人類の普遍性と特殊性が表現されている
  4. 国際的協調と連帯の精神が表現されている
  5. 美しい英語で表現されている

さらに、文学教材を使った指導・学習の内容については次のような候補があるとしています(p. 98)。

  1. 文学論の観点からは、文学の本質、歴史、形象、虚構、典型、類型などの文学理論がある
  2. 作品論の観点からは、形式面では、語・句、文体、語法、音韻、リズムなどの表現性と作品の構造があり、内容面では、作品の主題、人物の行動と心理、事件の展開などの思想性の問題がある
  3. 作家論の観点からは、作家の経歴、作家と作品の時代背景、他の作品などがある

また、改作の方法についても実際の教科書のテキストを例示しながら紹介されています。語や句の置き換え、原作の部分的な削除、簡素化(simplification)、の例が示され、それぞれの問題点が指摘されていました。

他にも、以下のような興味深い指摘がされています。

  • 教科書の改訂において文学教材が削除ないしは変更されることで、その教科書の質が低下してしまう場合があること(pp. 102-103)
  • 道徳との関連性を持たせることを意識するあまりに、本来であれば学習者に読み取らせる教訓などをテキスト中に明記してしまう場合があること(pp. 103-104)
  • 言語学、心理学、哲学、教育学、国語教育の領域を包括した学際的な研究体制が英語教育学には必要であること(p. 105)
  • 文学教材に関するより多くの実践と研究の成果を集めて、文学教育の諸問題をより科学的に解明していくことが必要であること(p. 105)

なお、1971年改訂の高等学校学習指導要領に準拠した英語教科書における文学教材の情報については次のようにまとめられていました(p. 99)。

  • 英語Bの読本と教科書は当時13社20種59冊あったが、これらで使用されている小説教材では、1年生用で16課(rapid readingを含み、同一教材が2課にわたって出てきた場合は1課とカウント)、2年生用で29課、3年生用で33課であった
  • 人気の作家ベスト6は、順にO. Henry、William Saroyan、W. Somerset Maugham、Saki、Ernest Hemingway、David H. Lawrenceで、1年生ではO. Henry、2年生ではWilliam Saroyanに次いでSaki、3年生ではW. Somerset Maughamに次いでHemingway、Saki、Saroyan、Steinbeckが同列、であった

著者は上記の2点目に関して、「全体的にはベスト6の作家が示すように、内容的に英米の常識的な日常的世界を描いた作品がほとんどであり、今日の高校生の感覚にあう新鮮な作品、たとえば、アジアやアフリカ諸国の現代文学作品などの教材化は見られない」(p. 99)と指摘しています。しかし、その一方で斬新な試みもされており、難解さゆえに敬遠されがちなW. Faulknerの作品、日本でほとんど紹介されていない女流作家Zona Galeの作品、黒人作家R. Wright、スペインの詩人J. R. Jiménezの作品、現代推理小説、などの教材化も見られるとしています。ただし、一般的には人気が高いと思われるP. Buck、Herman Hesse、Dostevski、M. Mitchell、E. Brontëなどは教材化されていないと指摘しています。加えて、漱石、芥川、川端の翻訳が見られた点も指摘されていました。

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