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2017年3月29日 (水)

M.A.K.Halliday(1964).「The Linguistic Study of Literary Texts」を読む(H.G.Lunt(編),『Proceedings of the Ninth International Congress of Linguistics: Cambridge, Mass., August 27-31, 1962』,Mouton)

著者はlinguistic stylisticsを提唱し、そのイメージとして文体論におけるcohesionの扱い、及びW. B. Yeatsの "Leda and the Swan" とA. Tennysonの "Morte d'Arthur" における動詞の使い方の違いの分析、を示しています。ですが、プロシーディングスですので、あまり詳しく述べられているわけではありません。

Halliday, M. A. K. (1964). The linguistic study of literary texts. In H. G. Lunt (Ed.), Proceedings of the Ninth International Congress of Linguistics: Cambridge, Mass., August 27-31, 1962 (pp. 302-307). The Hague: Mouton.

概要

著者はlinguistic stylisticsを次のように定義しています。

"We can therefore define linguistic stylistics as the description of literary texts, by methods derived from general linguistic theory, using the categories of the description of the language as a whole; and the comparison of each text with others, by the same and by different authors, in the same and in different genres." (p. 303)

文体論でのcohesionの扱い方(どのような点に注意すべきか)については、現在の談話分析等で常識となっている内容であったため、この記事では省略します。

2篇の詩の動詞の分析については、詳細は割愛しますが、両者がその用法が大きく異なっていることが示されています。そして、その結果を受けて、linguistic stylisticsの意義として次のように述べています。

"We do not need linguistics to point out that Yeats' treatment of an event here is very different from Tennyson's. But we do need linguistics if we want to state accurately the differences between the two texts." (p. 307)

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M.Salgaro(2015).「How Literary Can Literariness Be?: Methodological Problems in the Study of Foregrounding」を読む(『Scientific Study of Literature』)

著者は、イタリア語母語話者の母語での文学読解を調査しています。一方のグループには、今から読む文は文学作品から取ったものであると指示し、もう一方のグループにはそれらの文は新聞から取ったものであると指示し、その読解スピードなどがどのように異なるか調査しています。調査方法は、PC画面上での"a self-paced word-by-word reading situation" (p. 234) となります。調査参加者は、フィラー文(指定された条件(文学か新聞か)を強化するための文で、文学条件の調査参加者には文学らしい文が提示され、新聞条件の調査参加者には新聞らしい文が提示されます)、修辞的技巧(撞着語法・擬人法・共感覚的比喩・メタファー・メトニミー)を含んだ文学作品からの引用文、その引用文から修辞的技巧を取り除いた文、修辞的技巧を含まない文学作品からの引用文、の4種類の文を次々に提示され、内容理解に関する質問や言語形式に関する質問(特定の単語が使われていたかどうかを問うもので記憶を確かめるための質問)、がその都度出題されます。また、一般的な読解研究で、語の長さと語の使用頻度は読解スピードに大きな影響を与えることが分かってきているため、指定された条件はそれらの処理にどのような効果をもたらすかということも調べられています。

Salgaro, M. (2015). How literary can literariness be?: Methodological problems in the study of foregrounding. Scientific Study of Literature, 5 (2), 229-249.

概要

この調査の主な結果は以下の通りです。

  1. 新聞グループの調査参加者は、修辞技巧を含んだ文を読むスピードが他の文よりも極端に遅くなった
  2. 上記1点目の特徴は、撞着語法を含んだ文の時のみ、その影響が小さくなった(スピードがあまり遅くならなかった)
  3. 調査参加者は長い単語や使用頻度が低い単語の読解スピードが遅くなった(新聞グループでは特にこの特徴が顕著に見られた)
  4. 修辞的技巧を含んだ文を読んだ際、両方のグループの調査参加者は解答時間が長くなり、その正答率も低くなった

著者は上記の結果を次のようにまとめています。

"our results showed that being aware of the genre and having genre-oriented expectations may have a strong top-down influence on low-level language processes such as lexical access." (pp. 240-241)

"it appears that participants in Experiment 1 reacted differently towards word frequency and length as a function of their assumptions about text genre. This pattern may reflect differences in cognitive control; readers are able to tune their lexical access system according to the features of the genre they believe they are reading. Especially for readers in the news condition, the uncommon words were a greater lexical challenge than they were for readers in the literary condition." (p. 242)

"Our observations affirm that literariness cannot be considered a textual feature only, but is rather the effect of a multifaceted process integrating textual features and cognitive operations." (p. 245)

実は、Kao, Ryan, Dye, & Ramscar (2010) で、文学作品を日ごろから読んでいる読者は文学作品の語を好み、日頃文学作品を読んでいない読者はもっと一般的に使用される語を好むという傾向があることが明らかにされているのですが、著者はこのことが今回の結果に関わっているかもしれない(つまり、文学条件であればやや難し目の語や表現に出会うことをあらかじめ予想しているのに対して、新聞条件ではそのような心構えがない)と考えているようです。

著者はさらに、修辞的技巧を含んだ文に着目し、その技巧に関わる単語同士の関連性を評価させる課題を別の調査参加者に実施しました。例えば、共感覚的比喩であれば、green silenceにおける、greenとsilenceの意味的距離、撞着語法であればblack milkのblackとmilkeの意味的距離、が調査されました。その結果、共感覚的比喩や擬人法は撞着語法よりも単語の意味間に距離があると評価されたとのことです。

なお、本論文のサブタイトルには「研究法上の課題」とありますが、著者はどうしても自然な文学読解状況とはかけ離れた調査になってしまうこと、文学性は前景と背景の組み合わせで生じるにも関わらず背景部分を扱えていないこと(背景部分を削除して前景部分しか扱えていない可能性がある)、を挙げていました。特に後者の点については次のように述べています。

"It is therefore important to describe the interplay between foregrounded and backgrounded elements in literary texts and the resulting defamiliarization (foregrounding) and familiarization (backgrounding) effects on the reader." (p. 245)

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2017年3月22日 (水)

A.A.Hill(編)(1969).『Linguistics Today』より、気になった論文4本(Basic Books)

本書には様々な興味深い章が設けられていますが、以下では私が個人的に関心のあった章のみを取り上げます。

●Catford, J. C. (1969). J. R. Firth and British linguistics. In A. A. Hill (Ed.), Linguistics today (pp. 218-228). New York: Basic Books.

ジョーンズ卿の印欧祖語に関する着想にも拘らずイギリス言語学は比較言語学に大きな貢献をしなかったという点が指摘されています。また、ファースの理論の概要も解説されています。

Garvin, P. L. (1969). The Prague School of Linguistics. In A. A. Hill (Ed.), Linguistics today (pp. 229-238). New York: Basic Books.

ビューラーの理論がトゥルベツコイの音韻論、マテジウスの機能的文構成、ムカルジョフスキーの美的機能とどのように関わっているか解説されています。さらに、ハヴラネックらの標準語の研究についても紹介されています。

●Hamp, E. P. (1969). American Schools of Linguistics (other than Generative-Rransformational). In A. A. Hill (Ed.), Linguistics today (pp. 239-249). New York: Basic Books.

1960年代のアメリカの言語学で問題となっていた事柄や、特定の事柄に対して様々な立場があったこと(例えば音素vs弁別的素性etc)が紹介されています。成層文法などといった特定の言語理論を比較するのではなく、研究者個人レベルでの比較がされています。アメリカの言語学においても、意味について様々な捉え方がなされていたという記述がとても興味深いです。

●Whitfield, F. (1969). Glossematics. In A. A. Hill (Ed.), Linguistics today (pp. 250-258). New York: Basic Books.

言理学の基本的な研究方法について解説されています。

「まず、その言語にどのような種類の要素があるかを見出す。そして、それらをそれらの間に見られる単純な関係によって規定する。以上をすませておいてから、はじめてこれらの純粋に形式的な要素の実質を記述するのである。大ざっぱな言い方をすると、まず名詞を求めておいて、それから名詞の意味を研究する。まず母音を求めておいて、それから母音の実質となるような音を研究するのである。その際、記述の対象となっている特定の言語には名詞とか母音とかいったものはなく、その代りに、まったく違った形式的な定義をもち、それ故に異なった名称を与えられなければならないような内容の単位と表現の単位があるということになったりするのである。」(pp. 300-301))

言理学の理論的な特徴としては、以下の点が指摘されています。

  1. 個々の言語には、それ独自の2つのパタン、つまり意味の世界と音の世界、が存在していると考える
  2. 言語データを表現と内容に分割して分析する
  3. テクストのような大きな単位から小さな単位へと分析を進める
  4. 普遍的な文法(言語一般の構造)を明らかにすることを目指している
  5. 言語を1つの特殊な記号体系とみなしたうえで、記号体系一般の理論を打ち立てようとしている

各文献には和訳もあります。

キャットフォード,JC.(1971).「JR.ファースとイギリス言語学」(宮部菊男(訳).In AA.ヒル(編),『現代言語学-紹介と展望-』(宮部菊男(監訳),pp. 254-265).研究社.(原著は1969年出版)

ガーヴィン,PL.(1971).「プラーグ学派の言語学」(池上嘉彦(訳).In AA.ヒル(編),『現代言語学-紹介と展望-』(宮部菊男(監訳),pp. 266-277).研究社.(原著は1969年出版)

ハンプ,EP.(1971).「アメリカ言語学の諸流派(生成・変形文法以外のもの」(池上嘉彦(訳).In AA.ヒル(編),『現代言語学-紹介と展望-』(宮部菊男(監訳),pp. 278-293).研究社.(原著は1969年出版)

ホィットフィールド,F.(1971).「グロセマティックス」(池上嘉彦(訳).In AA.ヒル(編),『現代言語学-紹介と展望-』(宮部菊男(監訳),pp. 294-304).研究社.(原著は1969年出版)

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S.R.Levin(1964).「Poetry and Grammaticalness」を読む(H.G.Lunt(編),『Proceedings of the Ninth International Congress of Linguistics: Cambridge, Mass., August 27-31, 1962』,Mouton)

読み落としていた論文です。詩の文の文法性について生成文法標準理論における句構造規則の観点から考察されています。

Levin, S. R. (1964). Poetry and grammaticalness. In H. G. Lunt (Ed.), Proceedings of the Ninth International Congress of Linguistics: Cambridge, Mass., August 27-31, 1962 (pp. 308-315). The Hague: Mouton.

概要

著者は、詩の文はgrammaticalでもnongrammaticalでもなく、semi-grammaticalとみなす必要があると述べます。そして、semi-grammaticalな文は文法的な文や非文法的な文とは異なった形で文法規則と関わり、かつ文が違えばその関わり方も違ってくると指摘します。著者は、Chomsky (1961) のgrammaticalnessの枠組みに基づいて、e. e. cummingsの "Anyone Lived in a Pretty How Town" の中のhe danced his didという文と、Dylan Thomasの "A Grief Ago" から、a grief agoという名詞句を例に、この文(句)を産出するためには、句構造規則にどのような変更を行う必要があるか分析しています。結論としてと、a grief agoの方が句構造規則の変更も少なく、かつそれによって不自然な文が産出される可能性も比較的低く、詩人にも産出されやすい文(詩の文としてより自然で好ましい文)であるとしています(分析の詳細はこの論文を直接ご参照ください)。Chomsky (1961) が言うように、a grief agoといった文は、標準的な文をもとにした類推によって意味を理解することになります。

なお、Chomsky (1961) については以下のリンクをご参照ください。

http://takayukinishihara.cocolog-nifty.com/blog/2015/07/nchomsky1961som.html

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2017年3月21日 (火)

A.M.Jacobs(2016).「The Scientific Study of Literary Experience and Neuro-Behavioral Response to Literature: Reply to Commentaries」を読む(『Scientific Study of Literature』)

Jacobs, A. M. (2015). The scientific study of literature experience: Sampling the state of the art. Scientific Study of Literature, 5 (2), 139-170.

に対する2本のコメント論文

Kuiken, D. (2015). The implicit erasure of "literary experience" in empirical studies of literature: Comment on "The scientific study of literary experience: Sampling the state of the art" by Arthur Jacobs. Scientific Study of Literature, 5 (2), 171-177.

Dixon, P., & Bortolussi, M. (2015). Measuring literary experience: Comment on Jacobs (2016). Scientific Study of Literature, 5 (2), 178-182.

へのJacobsによるレスポンスです。なお、上記3つの文献については、以下のリンクを参照ください。

http://takayukinishihara.cocolog-nifty.com/blog/2017/03/amjacobs2015the.html

http://takayukinishihara.cocolog-nifty.com/blog/2017/03/jacobs2015-1a53.html

Jacobs, A. M. (2016). The scientific study of literary experience and neuro-behavioral response to literature: Reply to commentaries. Scientific Study of Literature, 6 (1), 164-174.

概要

著者は、特に研究方法に関するコメントに反応しており、次のように述べます。

"literary experience and neuro-behavioral responses to literature are the explanandum, and the "explanans work" should include but also go beyond "construct-altering descriptions" by testing (computational) model-guided hypotheses that explain and predict data at all levels of psychological inquiry." (p. 167)

著者は "model-guided, multilevel, multi-method attempts" (p. 168) が重要で、このことを実際の研究で実践しようとしていると述べています。そして、他の研究者からのコメントも積極的に研究内に取り込んでいきたいとしています(ただし、D. Kuikenからのコメントについてはmulti-methodという観点などから、やや批判的に反応している傾向が見られました)。

最後に、著者が考える理想的な研究のステップについて述べられています(ただし、これをあまりに押しすぎるとmulti-methodの観点から問題となりますので、あまり強い形で押し出されているわけではありません)。

  1. First of all, if at all possible, the student should join or work with an interdisciplinary team and use a stepwise model-guided, multi-level, multi-method approach (p. 170)
  2. In step 2 she could use direct online measures like verbal commentaries (e.g., Hoffstaedter, 1987) to verify the results of the computer simulations together with direct offline measures, e.g., text annotations and valence, arousal, imageability, or beauty ratings, to reveal the most arousing, imageable, poetic, or beautiful parts of the poem (as predicted by quantitative analyses of the text via appropriate tools like the Berlin Affective Word List/BAWL; Jacobs et al., 2015). (pp. 170-171)
  3. In step 3, she could use fMRI to examine which kind of imagery (e.g., enactment imagery) is dominant during the reading of the poem. (p. 171)
  4. In step 4 she could use a text manipulation to test whether the interpretation of the results of step 3, likely involving reverse inference, allows to predict the new results (thus overcoming the reverse inference problem). (p. 171)
  5. Finally, in step 5, taking "the spiral approach" seriously (Jacobs, 2015b) our bibliophile student could use the neurocognitive data of step 3 to revise and refine the tools used in steps 1 and 2. (p. 171)

なお、文学経験に関して脳科学的アプローチを取ることの意義に対しては、次のように述べています。

"Measuring brain activity offers the promise of better understanding which neurobiochemical processes - well embedded in geneticosociocultural contexts, .... As stated elsewhere (Willems & Jacobs, 2016), to support this promise I strongly advise the cognitive neurosciences to study literature and use ecologically more valid tasks." (p. 167)

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2017年3月17日 (金)

G.Carrol,K.Conklin,J.Guy,&R.Scott(2015).「Processing Punctuation and Word Changes in Different Editions of Prose Fiction」を読む(『Scientific Study of Literature』)

近年、特定の作家についての全集が編纂されており、その中に同じ作品の別バージョン(語が変更されていたり、句読点等に変化が生じているもの)を収めるという試みも盛んにされています。著者らは、このような別バージョンの同一作品を1冊の全集に収めるということは、一般読者にとってどのような意味を持つのか、ということを調査しています。同一作品の別バージョンから特定の要素が変更になっている文(または複数の文)を抽出し、それを母語話者の一般読者に読ませる際に、その違いに気づくのかどうか、書き換えの違いによって読みに変化が生じるのかどうかが、アイトラッカーを用いて調べられています。この論文では、Charles DickensのOliver Twistと、Henry JamesのThe Portrait of a Ladyが調査材料として用いられています。

Carrol, G., Conklin, K., Guy, J. & Scott, R. (2015). Processing punctuation and word changes in different editions of prose fiction. Scientific Study of Literature, 5 (2), 200-228.

概要

調査方法などについてはこの記事では省略し、主な結果のみを示しておきます。

  1. 別バージョンから抽出された2文を読むとき、最初に読む文よりも後に読む文の方が早く読まれ、かつ視点が止まる部分も少なくなる
  2. 文の違いに読者が気づく際には、違いが表れている箇所の読解スピードが遅くなり、視点が止まる回数も増える
  3. 語彙的な書き換えの方が句読点などの書き換えよりも気づかれやすい
  4. 語彙的な書き換えと句読点などの書き換えそれぞれにおいて、特定の書き換えのサブタイプが読者に上記2の影響をもたらしているといった関連性は見られず、読者は様々なタイプの書き換えに敏感であることがうかがえる

著者らは特に上記3点目に関して、次のように述べています。

"This suggests that lexical changes perhaps induce more careful reading of the sentence as a whole, whereas changes to punctuation show no such pattern. This is the only suggestion of a difference between substantive and lexical changes in the study, and we can speculate that this could be an important indicator that readers do implicitly ascribe more "semantic significance" to lexical changes, causing them to reconsider the rest of the sentence as well as the change itself. In contrast, noticing changes to punctuation does not seem to cause readers to also reconsider the broader sentence, suggesting that such features are perhaps considered more as minor variations with limited significance." (p. 217)

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2017年3月13日 (月)

C.W.Hayes(1969).「Linguistics and Literature: Prose and Poetry」を読む(A.A.Hill(編),『Linguistics Today』,Basic Books)

Hayes, C. W. (1969). Linguistics and literature: Prose and poetry. In A. A. Hill (Ed.), Linguistics today (pp. 173-187). New York: Basic Books.

概要

当時は、文学批評と言語学の間に大きな溝があったようで、著者は文学作品の言語分析は可能であるし、有益であるということを強く訴えています。その上で、当時まだ新しい理論であった変形生成文法を文学作品の言語分析に応用することの有用性が議論されています。詩の分析への応用としてSamuel Levinの一連の研究が、散文の分析への応用としてRichard Ohmannの研究とHayes自身の研究が整理され、変形生成文法を用いるとどのような分析が可能になるのかがかなり具体的に示されています。現在の文体論にとってはすでに内容が古すぎますが、文体論史上はとても貴重な文献だと思います。

なお、この論文には和訳もあります。

ヘイズ,C.W.(1971).「言語学と文学:散文と詩」(寺沢芳雄(訳).In A.A.ヒル(編),『現代言語学-紹介と展望-』(宮部菊男(監訳),pp. 200-216).研究社.(原著は1969年出版)

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2017年3月12日 (日)

D.I.Hanauer(2015).「Beauty Judgements of Non-Professional Poetry: Regression Analyses of Authorial Attribution, Emotional Response and Perceived Writing Quality」を読む(『Scientific Study of Literature』)

近年、アメリカではcreative writingのコースが急増しており、以前と違って、素人読者が素人作者の作品を授業時間内という短い時間の中で読むという形の文学経験が一般的になりつつあるそうです。著者は、この種の文学経験において、美の判断はどのようになされるのかアンケート結果をもとに分析しています。この論文の結論を簡単にまとめると、"As novice readers make decisions concerning the beauty of the poetry of novice writers with the intervention of a sense of the expertise and authority of a writer, the valuation of emotion and craft is being constructed in the mind of the reviewer" (pp. 197-198) となります。

Hanauer, D. I. (2015). Beauty judgements of non-professional poetry: Regression analyses of authorial attribution, emotional response and perceived writing quality. Scientific Study of Literature, 5 (2), 183-199.

概要

著者は、アメリカの大学では次のような形の文学経験が増えていると述べています。そして、その文学経験の一端を明らかにするのが本論文の目的です。

Taken together, these features describe a reading process in which readers with limited literary knowledge are asked to evaluate non-professional literary texts in a short time frame and in terms of their own immediate personal responses. (p. 185)

著者は12名の修士学生と42名の博士課程学生に対して(いずれも応用言語学専攻)、5つの詩(学部生が英作文の授業で作成した詩)を与え、1つの詩を読むごとに以下の4つの質問(いずれも5件法)に回答するという方法が取られています。調査はオンラインで行われました。4つの質問は以下の通りです。

  • This is a well written poem. (perceived writing quality)
  • I had an emotional response to this poem. (emotional response)
  • I find this poem to be beautiful. (beauty judgement)
  • This poem was written by a writer who has published poetry. (authorial attribution)

主な結果は以下の通りです。

  1. the aesthetic value of a poem is related to the cognitive perception of writing quality and the degree of emotion elicited. (p. 196)
  2. authorial attribution does have a predictive relationship with both the quality of writing and the emotional response. As such, the social positioning of the writer is seen to be related to the cognitive and emotive aspects of the evaluation of the poetic text. (p. 196)
  3. The mechanism of making this form of aesthetic judgement seems to involve a process by which the judgement about the quality of the writing and the emotional response to the poem mediate between the variables of social sanctioning of the writer and the beauty judgement of the poem. (p. 196)
  4. The mediation analysis pathway indicates that a decision that a poem was written by a published writer increases both the emotional response to the poem and the evaluation of the quality of the writing which both in turn increase the judged beauty of the poem. In other words, the judgements of both emotion and quality of writing were significantly related to the judgement of the expertise of the writer. Authorial attribution predicted and enhanced emotional responses and the perceived quality of writing. The novice status of the reader reviewers comes into play in this relationship in which beauty judgements are not being based only on internal characteristics of writing, developed personal aesthetic tastes or reference to the literary canon. Instead, judgements are being based on a sense of anthority and legitimacy assigned to the writer. This aspect of legitimacy and relationship to authority is understandable in terms of the readers and reviewers who are making short-term judgement with limited exposure to the canon or the literary criticism. (pp. 196-197)
  5. But it is important to point out that the data presented do not uniquely support this particular model and other potential directions in the pathway could be present. (p. 196)

上記5点目にあるように、やや推測も入った結論(特に上記4点目のモデルについて)となっていますが、とても面白い結果となっています。なお、authorial attributionとperceived writing qualityの間には双方的に高い因果係数が観察されており、詩人やその詩人の文体に関するスキーマの形成過程と関わりがあるのではないかと推察されています(p. 197)。

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2017年3月10日 (金)

S.M.Lamb(1969).「Lexicology and Semantics」を読む(A.A.Hill(編),『Linguistics Today』,Basic Books)

成層文法の論文になります。成層文法における意味の同義性、反義性、イディオム、有標性などの問題の整理の仕方が提案されています。読みやすく、とても面白い論文です。

Lamb, S. M. (1969). Lexicology and semantics. In A. A. Hill (Ed.), Linguistics today (pp. 40-49). New York: Basic Books.

なお、この論文には解説付きの翻訳もあります。この記事は、下の翻訳の表現に基づいて書きたいと思います。

ラム,S.M.(1971).「語彙論と意味論」(池上嘉彦(訳).In A.A.ヒル(編),『現代言語学-紹介と展望-』(宮部菊男(監訳),pp. 44-57).研究社.(原著は1969年出版)

概要

著者は、まず意味に関して以下の6点を認める必要があると述べます。

  1. 語は場合によっては2つ以上の意味を持つということ(多義性)
  2. 別な語でも同じ意味を持つことがあり得ること(同義性:これは完全な同義性ではなく、部分的な同義性を指す)
  3. ある語の意味は成分に分析できるということ(意味成分)
  4. ある語結合はそれぞれの語の意味を合わせたものとは異なる意味を持つ(イディオムなど)
  5. 語の中の幾組かのものには、お互いに逆の意味を持っているものがある(反義性)
  6. ある語の意味は他の語の意味に含まれる(包摂関係)

著者は、まず語に関して、morphological word、lexical word、semantic wordという3つの分類法を使い分けることが有益であると述べ、lexeme stratumに存在するlexemeとsemantic stratumに存在するsememeの対応関係に基づいて分析すべきであることを提案します。さらに、両層の間にsemantic signというものを設け、意味成分の分析も可能にしています。著者によれば、成分分析で問題になるような意味素性(/male/や/parent/など)がsememeとなり、それらの合成による意味(例えば/male/と/parent/の合成による/male parent/)がsemantic signとなり、これに対応する具体的な語(/old man/ /father/ /papa/ など)がlexemeとなります。

また、著者はsemantic syntaxという概念を提案します。これはsememe同士の結合のことを指し、この概念によって例えば "Tomorrow the sleeping table married its jumping lake." という文(文法規則に則しているものの意味をなさない文)が不適格になる理由が説明できるとしています。通常の統語論と違って、「人間」「生物」「具体物」「運動」「植物」「木」「常緑」といったタクソノミー的階層関係によってもたらされる範疇(これらは各言語固有の範疇と考えられています)に基づいて分析することになると述べられています(通常の統語論であれば、「動詞」「前置詞」などいわゆる品詞に基づいて分析されることになりますが)。

最後に成層文法の枠組みが比較的分かりやすく述べられている部分を引用しておきます。

A linguistic structure is a system with two ends: meaning is at one end and speech or writing is at the other. The linguistic structure is what connects meanings to speech and writing. We may visualize the system as having meaning at the top and speech or writing at the bottom. The sememes of a language are near the top, and the lexemes are below them; still lower are the morphemes. In polysemy there are two sememic units connected to the same lexeme, that is, two units at the higher level connected to one unit at the lower level; while in synonymy there are two units at the lower level connected to the one unit at the higher level. (pp. 42-43)

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2017年3月 9日 (木)

Jacobs(2015)のコメント論文を読む

先週紹介したJacobs (2015)に対するコメント論文を2本読みました。Jacobsの主張に大筋で賛成しているものの、それぞれの論文で、各著者が考える不足点が補足されています。

Kuiken, D. (2015). The implicit erasure of "literary experience" in empirical studies of literature: Comment on "The scientific study of literary experience: Sampling the state of the art" by Arthur Jacobs. Scientific Study of Literature, 5 (2), 171-177.

概要

著者は、以下の3点を補足点として指摘していました。

  1. 文学経験の研究を行う上で、概念の収束的妥当性については考慮されているが、弁別的妥当性に対する配慮が希薄である
  2. Jacobsは、experiential measuresよりも、neurocognitive measuresやbehavioral measuresの方をその客観性ゆえに重視しているようであるが(Jacobsは後者2者が基準となり、前者は後者の予測に従うべきものと考えている)、後者2者自体が一体何を表しているのか、その妥当性の研究が必要である
  3. Jacobsは現象学的アプローチについて言及しているが、その役割を過小評価している(著者は、"category-altering explication of particular regions of experience" (p. 175) も考慮に入れ、むしろこれをその重要な役割とみなすべきとしています)

Dixon, P., & Bortolussi, M. (2015). Measuring literary experience: Comment on Jacobs (2016). Scientific Study of Literature, 5 (2), 178-182.

概要

著者らは、以下の3点を補足点として指摘していました。

  1. 文学経験の研究は、読解終了後の様々な時点について研究すべきである
  2. 測定方法をtemporal relationship(onlineかoffline)×Inferential relationship(Indirectかdirect)で整理すると有益である
  3. 測定による文学経験のゆがみについても十分に配慮すべきである

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2017年3月 2日 (木)

A.M.Jacobs(2015).「The Scientific Study of Literature Experience: Sampling the State of the Art」を読む(『Scientific Study of Literature』)

この領域の研究の現状と今後の課題がまとめられています。

Jacobs, A. M. (2015). The scientific study of literature experience: Sampling the state of the art. Scientific Study of Literature, 5 (2), 139-170.

概要

この領域についてこれから勉強しようという人にはかなり有益な論文であると思います。様々な提言がされていますが、私自身が非常に印象的であったのは、以下の主張です。今後、この領域を進めていく上で重要な点として挙げられています。

  • 文学読解の理論的モデルを作り、それをもとに検証などをしていくこと
  • 様々な研究方法に習熟すること
  • いわゆる理系的研究者と文系的研究者が対話を行い、さらに文学の経験的研究自体を専門とする研究者を養成していくこと
  • 文学読解のミクロレベル(語彙認識など)について、もっと関心を示す必要があること
  • 文学経験(特に情意面)について、verbal、behavioral、neurobiologicalの3レベルで研究し、各データを突き合わせていくこと

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