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2017年2月26日 (日)

A.Chesnokova&W.van Peer(2016).「Anyone Came to Live Here Some Time Ago: A Cognitive Semiotics Approach to Deviation as a Foregrounding Device」を読む(『Versus』)

記号論の雑誌で掲載された論文で、どのようにして前景化の効果を実証的に研究していくか、その方法が実際の調査とともに掲載されています。この論文では、初級EFL学習者と上級EFL学習者(教員も含む)が、e. e. commingsの "Anyone Lived in a Pretty How Town" のオリジナル版と統語的逸脱をすべて取り除いたバージョンを読み、その反応が詩の1行目を読んだ後、途中、全体を読んだ後、でどのように変化するかが調査されています。反応は、Asthetic Appreciation、Aesthetic Structure、Cognitive、Emotive、Social Context、Attitudinalの6つのカテゴリーからなる計30の質問への回答によって見られています(具体的な質問項目は本論文を直接ご参照ください)。著者らは"there has been no research on how similarly or differently EFL novices and trained readers react to textual foregrounding" (p. 5) と述べており、文学理論においてEFL学習者の反応を研究することの重要性を説いています。

Chesnokova, A. & van Peer, W. (2016). Anyone came to live here some time ago: A cognitive semiotics approach to deviation as a foregrounding device. Versus, 122, 1-18.

概要

主な調査結果のみ示しておきます。

  1. 両群において、Aesthetic Structureでのみ、2つのテクスト間で反応の違いが見られ、オリジナル版の方が操作版よりも反応が高かった
  2. 調査参加者全体をひとまとめにして分析したところ、Aesthetic StructureとEmotiveの領域でのみ反応の違いが見られた。Aethetic Structureについては、上記1点目と同じ結果であるが、Emotiveについては初級EFL学習者と教員で、操作版の方がオリジナル版よりも反応が高いという結果となった
  3. 群間比較をしたところ、上級EFL学習者と初級EFL学習者ですべてのカテゴリーにおいて反応の値に違いが見られた
  4. 初級EFL学習者は一般に操作版の方を高く評価する傾向が見られ、上級EFL学習者はオリジナル版を高く評価する傾向が見られた(ただし、上級EFL学習者で統計的有意差が見られたのは、Aesthetic StructureとCognitiveでのみ)。つまり、上級EFL学習者のみが文学理論の予想通りの結果を示した。ただし、上級EFL学習者の集団の中にあって、教員だけはどの地点においても操作版の方を高く評価していた。
  5. テクストへの反応の違いが顕著に見られたのは、1行目を読んだあとの反応のみであり、途中、読解後、ではその違いがどんどんと小さくなっていった(ただし、2群の調査参加者の反応の違い自体はずっとキープされた)。これは、primacy effectか、単に調査参加者の慣れによって引き起こされたのかもしれない。

以上の結果から、著者らは前景化としての逸脱は読者に効果を与えると結論づけています。ちなみに、この調査で使用されたe. e. cummingsの作品が語彙的にはかなり簡単であるため、他の調査でも使いやすいかもしれません。また、操作版も付録に掲載されています。

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2017年2月23日 (木)

岡部匠一(1976).「ソヴィエト構造言語学の系譜Ⅰ」を読む(『人文科学論集』(信州大学人文学部))

ソ連での構造言語学(ボードアン・ド・クルテネやフォルトナートフの理論及び西欧の構造言語学を指しています)の展開についてかなり分かりやすくまとめられています。ですが、ソ連の言語理論の流れについての知識がないと理解しにくいかもしれません。

岡部匠一(1976).「ソヴィエト構造言語学の系譜Ⅰ」.『人文科学論集』(信州大学人文学部)),10,57-68.

概要

ここでは、私が特に重要だと思った指摘のみ列挙しておきます。

  1. ボードアン・ド・クルテネは、ソシュールの理論とは対照的に「時間軸にそって切った通時体系と、平面的に、ある特定時点を静止して横に切った共時体系が相互に規定しあうものとして把握された」(p. 58)
  2. ボードアン・ド・クルテネの言語体系には、音組織、語形組織、言語表現組織という3つの対等な下位組織が想定されていた(p. 58)
  3. ソシュールのラングとパロール以前に、ボードアン・ド・クルテネは「基本的な構成素とカテゴリーの、ある一定の複合体としての言語と、連続的に繰返される過程としての言語を分けて考えた」(p. 58)
  4. ボードアン・ド・クルテネが音素や形態素という概念を作った(p. 59)
  5. ボードアン・ド・クルテネによるカザン学派と、フォルトナートフによるモスクワ学派は、マール主義全盛の時代にあっても、一定の論理的立場を堅持することができた(p. 59)
  6. ボードアン・ド・クルテネもフォルトナートフも、言語研究に統計分析を利用した(p. 59)
  7. ボードアン・ド・クルテネは、言語記号に恣意性という特性を認めていたものの、記号体系としての言語という考えはまだ希薄であり、ロシアの言語研究は「構造主義の原初的形態を見せているだけ」であった(p. 59)
  8. トゥルベツコイはボードアン・ド・クルテネの考えから音韻論を発展させ、ヤコブソンはフォルトナートフから構造主義を発展させたと、それぞれが述べている(p. 59)
  9. 1956年に第20回党大会の決定を受けて、ソヴィエトでは、「構造言語学に関する集中的、かつ正鵠をえた討論を行うことを決定した」(p. 60)
  10. マールの時代には、西欧の構造言語学や比較言語学などはブルジョア的かつ反マルクス主義的といった烙印が押されていたため、構造言語学を信奉する学者はロシア語自体の研究をすることで身をひそめていた(p. 60)
  11. 1956年以降は、「ソ連の言語学は、西欧言語学や革命前の言語学の成果も、それらが、はっきりと反マルクス主義的な性格を帯びていないかぎり、あらゆる面で発展させる端緒を与えられることにな」り、特に西欧の構造言語学と積極的な交配を目指すこととなった(p. 62)

この記事ではかなり大雑把にまとめましたが、マール主義の時代に、連邦内のその他の言語学派はどのように共存していたのか、かなり詳しい情報が示されています。私自身も新しい情報がかなりあり、勉強になりました。

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2017年2月21日 (火)

原口庄輔(1982).『ことばの文化』(第10章「秘密語の諸相-子供の言葉遊びの分析-」)を読む(こびあん書房)

生成文法の観点から日英の言葉遊び(秘密語)の分析がなされています。面白い例がたくさん引かれていました。

原口庄輔(1982).『ことばの文化』(第10章「秘密語の諸相-子供の言葉遊びの分析-」).こびあん書房.

概要

著者は、子どもによる秘密語として、ピッグ・ラテン(英語)、マカロニ語(日本語)、バビブ語(日本語)、OB語(op語)(英語)、土星語(日本語)、を取り上げています。マカロニ語については、続く第11章で更に詳しく分析されています。

著者は、土星語(句の後に「ド」を逐一加える話し方を指します)を取り上げながら、このような言葉遊びが生成文法にとって重要な意味を持つ理由を述べています。著者によると、「年端もいかない女の子が、すでに句構造要素という概念を身につけているということを示すと思われるところから、興味深いものである」(p. 209)と述べています。

なお、この記事では省略しますが、秘密語が備えるべき特徴といったことについても理論立てて整理されています。ご関心のある方はぜひどうぞ。

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