« 2015年12月 | トップページ | 2016年3月 »

2016年2月22日 (月)

C.Hsu,A.M.Jacobs,F.M.M.Citron,& M.Conrad(2015).「The Emotion Potential of Words and Passages in Reading Harry Potter - An fMRI Study」を読む(『Brain & Language』)

画面上にHarry Potterシリーズからの4行程度の抜粋を提示し、その抜粋を読む時の脳の情意反応がfNIRSにより調査されています。本論文では、文章全体を読む際の情意は、個々の語が持つ情意的側面によってかなり説明されるということが示されています。

Hsu, C., Jacobs, A. M., Citron, F. M. M.. & Conrad, M. (2015). The emotion potential of words and passages in reading Harry Potter: An fMRI study. Brain & Language, 142, 96-114.

概要

調査方法の詳細は割愛し、この論文の結果のみをまとめておきます。著者らはこの調査により、"emotional brain responses to complex texts can be directly predicted by text surface features at lexical level as provided by large scale normative databases - in much the same way as using individual affective evaluations of the complete passages." (p. 104) という結果を得ました。この結果から、次のような考察がなされています。

"Emotion-laden words have the potential to capture attention (Kissler et al., 2006) - and they do so in at least a partially context-independent manner (Delaney-Busch & Kuperberg, 2013; Wang et al., 2013)" (pp. 107-108)

ただし、もちろん文学作品を読解する際の情意反応はこのことだけにとどまりません。著者らは次のように続けています。

"in addition, when we read a text, specific words reverberate in our minds beyond the more complex message conveyed by the text; and finally, the art of choosing the right words with the appropriate affective impact is part of what defines the skill of good writers or speakers. Moreover, while a text is clearly more than (or different from) the sum of average of its constituting words, single words also have a meaning beyond the specific context we find them embedded in: we have encountered these words in many other contexts before and our semantic representation of these words potentially contains traces of all these different contexts - giving words potentially complex emotional connotations. Superficially, these may not have much to do with the specific text we read, but rather the automatic activation of complex emotional connotations in our memory may add the lexical grain of affective salt that flavors text processing, therefore enabling us to joyfully read between the lines." (p. 108, emphasis in original)

著者らは、個々の語の情意面による文章全体の情意面の予測力が非常に高かったのは、以下のような調査方法に起因するのかもしれないとしています。

  1. 4行という短い抜粋を調査に用いたこと
  2. 文章内にあまり文体的な特徴が含まれていなかったこと
  3. 個々の語の情意が文章全体の情意と一致するような比較的素直な作品を調査に用いてしまった可能性があること

著者らは、今回の調査では個々の語の情意が文章全体の情意に大きな影響を与えることを明らかにしましたが、文学読解では語彙より上位のレベルでも独自の情意が生じると予想され、このことを今後は明らかにしていく必要があると述べています。

なお、著者らのグループは文学読解における情意面に関して様々な脳科学的アプローチの論文を出版しています。彼らは文学読解を次のように特徴づけています。

"literary reading can be viewed as a process of constructive content simulation, closely linked to perspective taking and relational inferences associated at the neural level with the activation of the extended language network, the Theory of Mind (ToM) network, brain regions associated with affective or mood empathy, the creation of "event gestalts", and with reward and aesthetic pleasure. These processes converge to fulfill the goal of literary reading, i.e., meaning construction and the closure of meaning gestalts which depends on many factors, including the affective meaning of single words and passages." (p. 96, emphasis in original)

| | コメント (0)

2016年2月18日 (木)

寺澤盾(2015).「変容する現代英語-英語史と英語教育の接点」を読む(『関東英文学研究』)

英語史の知見が英語教育にいかに貢献するのか議論されています。自然な英語をいかに教えていくのかという問題について色々と考えさせられる論文です。英語学的なアプローチによる英語教育研究を試みる人には必読の論文と言ってもいいかも知れません。

寺澤盾(2015).「変容する現代英語-英語史と英語教育の接点」.『関東英文学研究』,8,11-18.

概要

従来、英語史の英語教育への貢献と言うと、「現代英語に見られるさまざまな不思議(不規則性)を解き明かすことで、英語学習者の英語に対する興味を喚起し英語意欲を促進させる」(p. 12)という方向が考えられてきました。著者は、例として、以下の3つの事例を紹介しています。

  1. polite、delight、combine、police、machine、prestigeはいずれもフランス語からの借用であるにもかかわらず、なぜ前者3語と後者3語では/i/の発音が異なっているのか
  2. couldの綴りにlが含まれているのはなぜか
  3. mustにはなぜ過去形がないのか

しかし、著者はこのような形での英語史の教育的貢献は限定的であると考えています。そして、近年の英語史における現代英語の変化研究がむしろ、英語教育に大きな貢献をするのではないかと考えています。著者は、以下の事例を扱っています。

  1. 許可のmay vs. can
  2. 義務のmust vs. should vs. have to vs. need to
  3. 仮定法現在

上記1点目に関しては、現在ではcanがmayよりも使用頻度を上回っており、しかもcanは口語でよく使用されることから、英語教育ではcanを主に教えた方がよいのではないかと述べられています。

上記2点目に関しては、現代英語では、mustは義務の意味で用いられなくなりつつあり、むしろ他の3つの助動詞が使用されますが、中高生の英作文を見ると、彼らはmustを義務の意味で用い、それ以外の助動詞はあまり使用していないという実情が学習者コーパスから指摘されています。著者は、義務の助動詞としてはshould、have to、need toを中心に指導し、mustは現代英語で主流な「必然」の意味を中心に教えた方がよいのではないかと述べています。

上記3点目については、アメリカ英語ではthat節の後に「主語+動詞の原形」、イギリス英語では、「主語+should+動詞の原形」が用いられるとされることが多いですが、コーパスで調べてみると、前者の用法がイギリス英語でも主流となっています(イギリス英語のアメリカ英語化)。著者は、学校教育では「主語+動詞の原形」のパターンをまずは指導すべきではないかと提言を行っています。

著者は、個々の表現の特徴を把握した上で、口語的な変異形は発信型英語教育で、書き言葉で用いられる変異形は受容型文法として教えるといった工夫がこれから必要になるかもしれないと述べていました。

| | コメント (0)

2016年2月12日 (金)

安藤貞雄(2005).『現代英文法講義』を読む(開拓社)

安藤貞雄(2005).『現代英文法講義』.開拓社.

感想

通読しました。著者の長年の研究がちりばめられた一冊です。非常に広範な文法現象が、言語学的な根拠(認知言語学、機能統語論、生成文法、英語史など)とともに解説されています。もちろん手元に置いておく参考書としても価値は大きいですが、読み物としてもとても面白いと思います。言語学の知識が必要な箇所もありますが、例文も含めて非常に読みやすいものとなっています。また、文学作品からの例文が非常に多かった点も特徴だと思います。著者はこの点に関して、「用例は、なるべく文学作品から採り、その数も多めにした。文学の言語にこそ、言語の最も創造的な使用が見られるからであり、また、ある意味では、用例の質が文法書の生命であると信じるからである。」(p. v)と述べています。英語を専攻する人が一冊文法書を読むとしたら、間違いなくその候補のトップに来る一冊だと思います。

| | コメント (0)

« 2015年12月 | トップページ | 2016年3月 »