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2015年12月25日 (金)

L.Sugiura, et al.(2015).「Effects of Sex and Proficiency in Second Language Processing as Revealed by a Large-Scale fNIRS Study of School-Aged Children」を読む(『Human Brain Mapping』)

fNIRSを使って、日本人奨学生に対して高頻度語と低頻度語をL1とL2(英語)で復唱する課題を実施し、その際の脳の賦活が研究されています(音韻処理の研究となります)。英語力による違い、性差、L1とL2の違いなど非常に興味深い結果が報告されています。まだ研究の数が少ない子どもの学習者を扱っているという点およびその調査参加者の数(484名)で非常に貴重な論文です。

Sugiura, L., Ojima, S., Matsuba-Kurita, H., Dan, I., Tsuzuki, D., Katura, T., & Hagiwara, H. (2015). Effects of sex and proficiency in second language processing as revealed by a large-scale fNIRS study of school-aged children. Human Brain Mapping, 36 (10), 3890-3911.

概要

これまでの研究では次のようなことが示されています。

  1. L1とL2では似た領域を使って言語処理をしている
  2. 熟達度によって賦活の程度が異なる
  3. L1との賦活の程度差は初級学習者で最も大きい

これまでの研究では大人の学習者を対象としたもので、統語処理や語彙の意味処理を扱うものが多かったそうですが、著者らは子どもの音韻処理を扱います。言語習得において音韻処理は重要な役割を担っていることを示唆する研究が多く報告されているためです。なお、著者らの研究グループはすでに子どものを扱った研究を報告しており、その研究では次のようなことが明らかになっているとのことです。

  1. 子どもは語を処理する際に、L1とL2で大体同じ部位を使っている
  2. 語彙知識の程度に拘わらず、特にthe superior/middle temporal and inferior parietal regions (angular/supramarginal gyri) においてL1での賦活がL2より大きい

著者らは特に上記2点目の結果から、"The greater L1-elicited activation in these regions suggests that they are phonological loci, reflecting processes tuned to the phonology of the native language" (p. 3892) と述べています(論文中には、上記2点目と同じ調査結果を報告している先行研究が列挙されています)。

具体的な調査方法についてはこの記事では割愛し、以下では本論文で報告されている主な結果をまとめておきます。

  1. 従来の統語処理及び語彙処理と同様に、男女両方の子どもの音韻処理においてL1とL2で同じ部位が機能している(L1とL2の言語差が大きかったとしても)。ただし、言語間、半球間、で賦活の程度には違いがあった。また、高頻度語の処理に関しては男女間で賦活の程度に違いが見られた。(p. 3903)
  2. 男女ともにL1の処理時の方がL2の処理時よりもthe superior/middle temporal gyri (SMTG)、the angular gyrus (AG)、the supramarginal gyrus (SMG) で賦活が高くなる(特に後者2部位で顕著)。(p. 3903)
  3. 男子はL2処理時にもそこそこにAGとSMGを働かせているが、女子はL1処理時のみである。(p. 3903)
  4. SMTGの後部はウェルニッケ野の一部で音の知覚や語彙の音韻アクセスに関わるとされてきた。女子はL1かL2にかかわらず男子よりも強くこの部位を賦活させていた。男子はAGやSMGも含めた広範囲の部位を活用して音韻処理を行っているのに対して、女子は処理時にSMTGに限定して処理を行っているようである。(p. 3903)
  5. L1とL2の処理に関して、the primary and auditory association cortices (PAAC) での処理の段階では違いが見られないが、SMTG以降の処理で違いが現れ、その違いは処理が進むにつれて徐々に大きくなる傾向がある。(p. 3903)
  6. PAACでは男子も女子も半球間に賦活の違いが見られないが、AGをはじめとしたthe anterior language areasではその違いが確認された。(p. 3904)
  7. SMTG、AG、SMGではL2処理時に賦活が弱まる(これはこれまでの大人を扱った先行研究と一致した結果である)。これは、言語の熟達度がL1よりもL2で低くなることがその原因であると考えられる(L2を学習し始めたばかりの学習者および大人の初級L2学習者で共にこのような特徴が見られたため)。(p. 3904)
  8. 語を復唱する際には、意味処理よりも音韻処理が中心的に機能しているようであり、高頻度語と低頻度語の間で見られた違いは語の音韻的特徴への馴染み度が関係していると考えられる。また、右半球のブローカ野相当領域が強い賦活が見られたが、これも音韻処理と関係しているのだと考えられる。また、この部位はプロソディーの処理に関わるとされており、低頻度語の処理においてはL1よりもL2その賦活が高くなった。これは処理時の認知的負荷が原因と考えられる。(p. 3905)
  9. 言語間の賦活の違いはSMTG、AG、SMGで観察された。このことから、the posterior language-related areaは言語差に敏感であるが、the anterior language-related areaは鈍感であり、このような部位の違いは音韻処理(the posterior language-related areaで処理される)が関係しているのだと考えられる。(p. 3905)
  10. 今回の調査では年齢による違いはさほど目立ったものは観察されなかった。しかし、男子は特にPAACで、女子は特にSMTGで年齢が上がるにつれて賦活が弱まった(この傾向は男子はSMTGで、女子はPAACででも観察されている)。実はthe posterior temporal regionでの年齢発達に応じた賦活低下は先行研究でも報告されている。年齢とともに言語処理が効率化することがその原因と考えられる。(p. 3905)
  11. 男子はL2の熟達度が高いと両半球で広範な部位が賦活をするのに対して、女子ではそのような熟達度による違いは見られなかった。L2の熟達度が低い学習者ではこのような言語処理時の性差は見られないが、熟達度が上がると性別による違いが生じる。著者らはこのような性差が生じる原因として、"sex differences are acquired or enlarged during language development through different cognitive strategies between sexes, which is resultant of different memory functions between sexes" (p. 3906) と考えている(詳細は本論文のpp. 3906-3908を参照のこと)。
  12. 女子の方がphonological familiarityに対して敏感であると考えられる。(p. 3908)

なお、著者らは、性差が観察される理由は、男女で脳が解剖学的に構造が異なっているからではなく、使い方が違うためだと考えています。

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2015年12月14日 (月)

J.N.Williams(2013).「Attention, Awareness, and Noticing in Language Processing and Learning」を読む(J.M.Bergsleithner,S.N.Frota,&J.K.Yoshioka(編),『Noticing and Second Language Acquisition』,NFLRC)

attentionとawarenessを切り離し、どちらが第2言語習得にとって必須であるのかが先行研究の結果をもとに議論されています。結論としては、awarenessは必須ではなく、attentionが不可欠であると述べられています。

Williams, J. N. (2013). Attention, awareness, and noticing in language processing and learning. In J. M. Bergsleithner, S. N. Frota, & J. K. Yoshioka (Eds.), Noticing and second language acquisition: Studies in honor of Richard Schmidt (pp. 39-57). Honolulu, HI: University of Hawai'i, National Foreign Language Resource Center.

概要

著者は、まずSchmidtが言うnoticingという概念は日常的な意味で用いられていることを確認します(Schmidt自身がそのように述べています)。次に、以下のようにまとめる形で、attentionとawarenessは切り離して考えることができることを確認します。

"It seems from these examples that attention and consciousness should be thought of as different things (Dehaene, Changeux, Naccache, Sackur, & Sergent, 2006; Koch & Tsuchiya, 2007). It is therefore more precise to think of attention as a (limited) cognitive resource that when applied to a representation results in deeper and more elaborate processing. But just because something is attended does not mean that we are necessarily aware of it (as in the case of subliminal priming), and the attentional system can orient to stimuli that are not consciously perceived." (p. 41)

また、Block (2007) のaccess awarenessとphenomenal awarenessに言及し、Schmidtが述べるnoticingとはその一種(access awareness:注意を向けた対象を事後報告できるもの)にすぎない点も指摘しています。ちなみに、phenomenal awarenessとは束の間のものであり報告することができないものとなります。さらに、先行研究結果からawarenessの状態に至らずとも学習は生じるということを確認しています。

なお、L1処理においては、awarenessはおろかattentionのない言語処理や暗示的記憶も行われています。しかしながら、第2言語習得では、新しい形式を学習したり既知情報間に新しいコネクションを作る必要があるため、L1処理と同様に物事を考えることは難しいとしています。著者の立場としては、第2言語習得では、awarenessは必須ではいが、attentionは不可欠であるというものです。著者は、awarenessなしの学習は、語形やmulti-word unitなどの統計的学習に特に関わっており、さらにより高次の文法的学習を進めることになるとしています。

また、Schmidtはunderstandingとnoticingという2つのawarenessのレベルを分けました。それに対して、著者は、各レベルで問題となるような学習内容は、awarenessなしで習得できることを先行研究から示しています。understandingに関してはsemantic implicit learningがその例として挙げられています。また、noticingに関しては、awarenessを伴なうことによってその学習が限定的になる可能性を示唆した研究に言及があり、非常に面白く思いました(pp. 50-51))(例:AとBの共起関係において、noticingが生じてしまうと、AならばBという一方向的な学習しかできないが、awarenessが生じていなければAとBは一緒に使われるという(AならばB及びBならばAという双方向的)学習が生じる)。

最後に、著者は、今後は既知の知識がどのように学習プロセスを制限していくのかということへと研究をシフトしていく必要があると述べています。また、「第2言語習得にとって意識は必要かどうか」という段階から以下のような次の段階へと進む必要があるとのことでした。

"Thus, we move away from the question of whether implicit learning occurs at all to a more theoretically interesting one of whether there are innate or more general cognitive predispositions for learning certain patterns within language." (p. 52)

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2015年12月 7日 (月)

G.O.Einstein,M.A.McDaniel,P.D.Owen,&N.C.Coté(1990).「Encoding and Recall of Texts: The Importance of Material Appropriate Processing」を読む(『Journal of Memory and Language』)

ほn情報処理法と記憶の関係を調べた有名な論文です。A Material Appropriate Processing Frameworkという枠組みに基づいた論文となります。調査においては、従来のタスクに加えて新しいタスクを実施し、両者の間で結果が変わらないことを確認しています(一見似ていない同種のタスクを実施することで、議論の確からしさを向上させました)。学習におけるgenre-specific readingの必要性を示唆した重要な論文です。

Einstein, G. O., McDaniel, M. A., Owen, P. D., & Coté, N. C. (1990). Encoding and recall of texts: The importance of material appropriate processing. Journal of Memory and Language, 29 (5), 566-581.

概要

著者らは、まずこの枠組みの主な特徴として次の2点を挙げています(p. 566)。

(a) high recall occurs when subjects encode both relational and individual-item information
(b) different types of materials and processing activity should be effective to the extent that it encourages processing of the type of information that is not sufficiently invited by the stimulus material

著者らは、主におとぎ話(グリム兄弟による "How a Grandson Rescues His Grandfather From Having to Eat in a Corner" 及びロシアの "The Just Reward" という作品を使用)と論説文に対して5つの条件(統制条件、individual-item task×2、relational task×2)を実施し、テクストと読み方と記憶の関係を探っていきます。

この論文では大きく3つの実験が行われていますが、主な結果は以下の通りです。

  • おとぎ話ではindividual-item taskが、論説文ではrelational taskが記憶を向上させる(なぜなら、これらのタスクは、各ジャンルが本来読者に注意を向けることを促していない情報に着目させるため)
  • a material appropriate processingの記憶に対する効果は1週間以上持続し、特にrelational taskの効果が大きいようである(ただし、relational taskのおとぎ話への効果は調査直後には見られない)
  • 一定のレベル以上にタスクの困難度を上げても、記憶には何の影響もしない(悪影響も促進的影響もない)

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2015年12月 2日 (水)

大名力(2014).『英語の文字・綴り・発音のしくみ』を読む(研究社)

大名力(2014).『英語の文字・綴り・発音のしくみ』.研究社.

概要

発音と綴りの関係について非常に詳しく、かつ分かりやすくその規則が解説されています。英語においては綴りと発音がずれているということを指摘して議論を済ませてしまいがちですが、両者の間にはそれでも多くの規則が存在していることを理解させてくれます。それと同時に、英語の綴りはなぜこのように発音とずれが生じてしまったのかも、様々な要因が指摘されています(通常は大母音推移と活版印刷による綴り字の固定だけに注目が集まりますが、それ以外にも様々な要因が挙げられています)。日本語の五十音図における音の配列規則、アルファベットの配列と文字名、英語の書体の発展など、通常は難解な文献でしか取り上げられないトピックも非常にわかりやすく解説されており、多くの発見がある一冊です。以下に章立てを示しておきます。

第1章:「五十音図」について考える―調音音声学入門
第2章:発音と綴り字―基礎編
第3章:発音と綴り字―応用編
第4章:分綴法
第5章:文字の種類・発達・用法
第6章:アルファベットの起源と発達
第7章:英語における正書法の発達と音変化

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