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2013年10月22日 (火)

杉浦正利・山下淳子(2011).「アイトラッキングを使った言語処理過程の研究」を読む(藤村逸子・滝沢直宏(編),『言語研究の技法 データの収集と分析』,ひつじ書房)

調査でアイトラッキングを使用することになったので、勉強させていただきました。

杉浦正利・山下淳子(2011).「アイトラッキングを使った言語処理過程の研究」.In藤村逸子・滝沢直宏(編),『言語研究の技法 データの収集と分析』(pp. 159-177).ひつじ書房.

概要

この論文は、以下の3つの部分から構成されています。

(A) アイトラッキング研究を行う上での基本事項の確認

(B) アイトラッキングを使った第2言語習得研究の成果の紹介

(C) アイトラッキングを使って研究する際の実際の分析手順の説明

●アイトラッキング研究を行う上での基本事項の確認

ここでは、以下の事柄が説明されていました。

(1) 英語リーディングでの視線データの基本的な特徴

(2) 言語研究で利用される測定値

(3) リーディングに影響を与えるとされる要因

(4) 統語処理の負荷

(5) リアルタイムで話し言葉の理解を研究するための方法(視覚世界パラダイム)

(1) 英語リーディングでの視線データの基本的な特徴

以下の5点が述べられていました。

(ア)英語の文を読む場合、視線は平均200~250ミリ秒ほど特定の点を注視(fixation)したら、右側へ7~9文字くらいジャンプ(=「サッカード」)する(p. 160)

(イ)このジャンプは、平均して20~40ミリ秒で次の注視点へ移動する(p. 160)

(ウ)10~15%の割合で数文字分の逆行が起きる(p. 160)

(エ)人は、平均して注視点の左側3~4文字、右側の14~15文字まで見えるが、語として認識できるのは7~8文字までとされる(p. 160)

(オ)読みのプロセスで理解に困難が生じると逆行が起こるとされる(p. 162)

(2) 言語研究で利用される測定値

視線データは注視とサッカードの2種類から構成され、このデータをどのように数値化するのかということについて6つの測定値が紹介されています(いずれもp. 161)。

(ア)初回注視継続時間:領域内でおきた最初の注視の継続時間

(イ)凝視継続時間:領域に入ってから出るまでの注視継続時間

(ウ)総注視時間:領域内での注視時間の合計(逆行時の注視時間も含む)

(エ)進行経過時間:領域に入ってから逆行を含めて右側へ出ていくまでの注視時間の合計

(オ)注視頻度:領域内での注視頻度

(カ)逆行頻度:領域内での逆行の起きた頻度

(3) リーディングに影響を与えるとされる要因

単語レベルと文レベルに分けて記載されていました。

単語レベルでは、使用頻度、親密度、単語の長さ、形態論的複雑性、多義性、文脈や古ロケーションからの予測可能性、が挙げられていました。

文レベルでは、ガーデンパス文、代名詞の照応、関係節、が挙げられていました。また、重要な点として、spillover effect(「ある単語の処理の困難さが即時ではなく遅れて次の単語に処理を与える」(p. 163)こと)の指摘もありました。

(4) 統語処理の負荷

(4)に関しては、Staub (2010) の研究を例として、目的格の関係節のように情報を保持(記憶)したまま統語処理を行ったり、生起が予測しにくい語を処理しなければならない場合に、統語処理の負荷が高まることが紹介されていました。

(5) リアルタイムで話し言葉の理解を研究するための方法(視覚世界パラダイム)

(5)は、言葉で言及された事物に対して視線がどのように動くかということを調べるというものです。Tanenhaus, Spivey-Knowlton, Eberhard, & Sedivy (1995) を例に詳しく説明されています。また、「言語情報の理解は非言語情報の理解と独立して行われるのではなく、「理解」という認知処理体系の中に統合されていると考えざるを得ない」(p. 166)という彼らの研究の調査結果も紹介されていました。

●アイトラッキングを使った第2言語習得研究の成果の紹介

ここでは、以下の事柄を調べた研究が紹介されていました。

(1) 定型表現の処理

(2) 文処理

(3) 言葉への気づき(noticing)の生起

(4) 漢字の処理

個人的には、上記の (3) に大変興味を持ちました。これまで、言葉への気づきが生じたかどうかは、調査終了後の調査参加者の記憶を通してしか測定することができませんでした。しかし、アイトラッキングを使えば、目標言語項目に対して注視が起こっているかどうかという観点から言葉の気づきの生起に関してオンラインで調べることが可能となります。

●アイトラッキングを使って研究する際の実際の分析手順の説明

ここでは、以下の2点に分けて説明がなされていました。

(1) 既存の視線計測装置とソフトウェアの紹介

(2) アイトラッキングを使った場合の実験の流れ

この記事では割愛したいと思いますが、有益な情報が豊富に含まれています。

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