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2013年2月26日 (火)

A.Mechelli,J.T.Crinion,U.Noppeney,J.O'Doherty,J.Ashburner,R.S.Frackowiak,&C.J.Price(2004).「Structural Plasticity in the Bilingual Brain: Proficiency in a Second Language and Age at Acquisition Affect Grey-matter Density」を読む(『Nature』)

第2言語習得および第2言語習得開始年齢と脳の灰白質の密度の関係を調べたとても面白い調査です。文献の詳細は以下の通りです。

Mechelli, A., Crinion, J. T., Noppeney, U., O'Doherty, J., Ashburner, J., Frackowiak, R. S. & Price, C. J. (2004). Structural plasticity in the bilingual brain: Proficiency in a second language and age at acquisition affect grey-matter density. Nature, 431, p. 757.

感想:第2言語習得は左半球下頭頂皮質の灰白質の密度を高め、この脳領域の構造的再編成は第2言語熟達度と第2言語習得開始年齢によって変化するということが示されていました。モノリンガルよりもバイリンガルの方が、同じバイリンガルでも大人になってから第2言語を学習した人よりも子供の頃から学習を始めた人の方がこの領域の灰白質の密度が高いそうです。学習年齢が低い方が灰白質の密度が高かった理由として、"Early bilinguals probably acquire a second language through social experience, rather than as a result of a genetic predisposition." と述べられていました。著者らは、"Our findings therefore suggest that the structure of the human brain is altered by the experience of acquiring a second language." と述べています。なお、左半球下頭頂皮質は口頭による第2言語流暢度タスクを行う際に脳活動が活性化する領域だそうで、第2言語熟達度によって灰白質の密度が高まるという今回の結果と合わせて今後研究が進められる必要があるようです。

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2013年2月18日 (月)

苧坂直行(2010).「感性言語―擬音語・擬態語と脳―」を読む(三浦佳世(編),『感覚と感性』,北大路書房)

擬音語と擬態語を脳科学的な観点から考察したとても興味深い文献です。この文献の詳細は以下の通り。

苧坂直行(2010).「感性言語―擬音語・擬態語と脳―」.In三浦佳世(編),『感覚と感性』(pp. 156-184).北大路書房.

感想:著者によると、擬音語と擬態語はもともとは感覚表現に使われていたそうですが、これが徐々に感情・心情を示す感性表現へと変化したものだそうです(著者はクオリアの言葉と述べています(p. 156))。これらの語はもともとは「まね」の言葉であり、最近ミラーニューロンが言語の発生と関わるという考え、「ものまねを担う脳の前頭葉皮質がブローカ野とも重なる」(p. 160)という点、及び幼児にとって擬音語・擬態語が言語獲得の第一歩であることから、擬音語と擬態語が人類による言語獲得の基盤となる可能性もあるという壮大な仮説が提示されていました。著者は「感性やクオリアが言語の起源であり、言語を制御する社会脳の生みの親であると考えている。ここで社会脳とは外部環境世界と心の世界をインターフェースするように構築されたしなやかな前頭前野を中心とする脳領域を指す」(p. 160)と述べています。このような考えを支持する証拠はpp. 167~169に豊富に挙げてありました。

なお、擬音語・擬態語には人間の五感が関係すると思われますが、日本語の場合は聴覚、視覚、触覚でそれぞれ3割を占め、味覚と嗅覚が関係するものはほとんど見られない傾向があるそうです。著者は聴覚と視覚の例が多いことは理解できますが、これらと同程度に触覚の例が見られたことから、「日本人が触覚や皮膚感覚などに感受性が鋭いこと、さらに触覚的感性が日本文化の感性の基底にあることを示唆している」(p. 161)のではないかと考えています。また、擬音語・擬態語は主に動詞を修飾することから、これらの語は「運動を基盤としたアクティブで構成的な、感じる人間の側からみた感性語なのである。擬音語・擬態語には心情表現に関するものも多々あるが、それらも五感の感性的表現が転用されたものとみなすことができる」(p. 161)と述べています。

また、これらの語は一種の比喩的な働きをしており、複数の感性体験がクロスモーダルな形で機能するいわば共感覚的な例も見られるそうです(例えば、「甘い香り」は味覚から嗅覚への転用)。なお、どの感覚がどの感覚に転用できるかということには一方向的な傾向性が見られ、基本的に触覚に関する語はその他の感覚に転用しやすい傾向があるそうです。このことから、日本語では触覚に優位性が見られる傾向があると著者は指摘します。触覚に関する語は徐々に心身の状態を表す感性表現(主に擬態語)へと変化していったのではないかという考えが展開されていました。著者は特に「心身の状態に転化した擬態語が生まれる契機となるのがおそらく痛みの感覚だろう」(p. 163)と推定しています。

また、擬音語・擬態語と感覚の間には照応関係があることも明らかにされています。著者によると、特定の母音や子音が大小、明暗などと照応関係にあること、既成の語にもこれらの感覚と相応関係があること、が既に先行研究によって示されているそうです。また、面白い報告として、音節と図形の間にも一定の照応関係が確認されているそうです。どうやら、音声言語における音声の相貌的性質が擬音語・擬態語として言語構造の中に残存していると考えることができるようで(p. 166)、これらの語はマンガや絵本の中で効果を発していると著者は指摘します。なお、日本語母語話者でなくとも、日本語の擬音語・擬態語の音の印象は日本語母語話者と近接しており、「擬音語・擬態語の成分のうちには言語と独立した共通の認識次元があることを示している」(p. 170)と著者は指摘しています。

次に、擬音語・擬態語の理解の脳内基盤についてfMRIを使った先行研究の結果が紹介されていました。著者によると擬音語・擬態語はその表現が表す感性を制御する脳内領域の活性化を引き起こすことが示されているそうです。笑いに関するものでは「側坐核や尾状核といった中脳辺縁系のドーパミン系ニューロンの活性化(報酬系の活性化)をうなが」(p. 172)し、心理的な痛みに関するものでは「中脳辺縁系の前部帯状回が大きく活性化すること」(p. 172)などがわかったそうです(論文中には他の例による調査結果も紹介されていますが割愛します)。私たちは、言語刺激の中に示唆された情報を基に脳内でその刺激体験を疑似的に創り上げているようです。著者は「ことばにより示唆された痛み、笑い、まなざしや歩きについても文学の鑑賞と関わっているように思える」(p. 174)と述べています。ここで示されていた研究成果から、たとえば恋愛詩と恋愛の定義文を読ませてどのような脳反応が見られるか調べてみると面白いかもしれないなと思いました。

また、著者は擬音語・擬態語の構造と機能を研究するための方法及び手順について紹介しています。これらのタイプの言語表現を分析する上では非常に有益なガイドラインではないかなと思います。また、ここで紹介されていたのですが、視覚によって提示された情報と擬音語・擬態語によって提示される情報が等価なイメージ化のポテンシャルを持つ可能性があるという調査結果はとても面白いと思いました。

私が現在行っている研究とは少し対象が違いますが、非常に多くの示唆を得ることができました。自分の研究に活かしたいと思います。

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