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2012年6月20日 (水)

大石衡聴(2008).「脳科学からの言語へのアプローチ-言語の機能局在」を読む(入來篤史(編),『言語と思考を生む脳』,東京大学出版会)

言語の機能局在という問題について考察された一章です。脳科学研究で使用する調査方法や脳の構造についてもとても詳しい説明がなされていました。

大石衡聴(2008).「脳科学からの言語へのアプローチ-言語の機能局在」.In入來篤史(編),『言語と思考を生む脳』(pp. 21-40).東京大学出版会.

感想:著者はまず脳の構造について詳しく説明します。ブロードマンの分類との対応関係も述べてくれています。大脳皮質については、言語の問題はひとまず置いておき、運動野、感覚野、連合野に分けて説明がされていました。次に言語の機能局在を調べる方法が紹介されます。ここで挙げられていたのは、損傷法、干渉法(電気刺激を頭蓋の外から与える方法と脳の表面に直接与える方法があり、最近は経頭蓋磁気刺激法というものもあるそうです)が紹介されていました。そして、言語野について解説がされます。ブローカ野、ウェルニッケ野、角回、縁上回、の説明がなされ、これら4領域が言語に深くかかわっていることが明らかにされているそうです(p. 27)。また、これら4領域のブロードマンの分類との対応も示されています。次に研究方法の説明がされます。ここでは、ERP、MEG、PET、fMRI、NIRSについて詳しく説明され、その利点や問題点も簡潔にまとめられていました。また、いずれの方法を使用するにしても主に差分法を使用することになるとのことでした。次に失語について述べられています。ここでは、全失語、ブローカ失語(非流暢性運動性失語)、失文法症、ウェルニッケ失語(感覚性流暢性失語)、伝導性失語、超皮質性運動失語、超皮質性感覚失語、混合性超皮質失語、純粋失読、純粋失書、純粋語唖、純粋語聾、皮質下失語(皮質下運動性失語と皮質下感覚性失語)、の説明がありました。実際の症状では、言語の産出と理解は、二重乖離(一方の能力が失われても他方が保持されていること)しており、脳の機能局在を証明する大きな証拠となっているそうです。

本章の最後では、言語の機能局在という考え方について再考が試みられます。例えば、Vigneauらのメタ分析によると、音韻処理、意味処理、文処理に関して、「これら3つの処理を実行している際に活性化する脳領域が部分的に重なっていることを示し、各レベルの処理がそれぞれに特化した言語野の中で独立して実行されているのではなく、広範囲な言語野のネットワークにより実行されている」(pp. 34-35)と主張されています。また、ERPを用いた研究でも、従来のように意味的処理ではN400、統語的処理ではP600が検出されると考えられてきましたが、逆の形で脳波が確認された(意味的処理でP600が見られるなど)という研究報告もあるそうです。そして、「オンラインでの文処理の際、我々の脳は統語的処理と意味的処理を独立かつ同時並行的に実行し、それぞれの出力結果を相互作用させることで当該の文の意味を理解するための最終的な心的表象を構築していることを示唆している。もしこのことが妥当ならば、仮に統語処理と意味処理のそれぞれを特定的に担う言語野があるとしても、「異なる言語野間の相互作用は含意しない」という意味での「言語の機能局在」には、やはり問題があるように思われる」(p. 36)と述べていました。そして、「言語は、脳内の複数の言語野の連携によって処理されると考えた方がよさそうである」(p. 36)と結論付けられていました。

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