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2012年5月24日 (木)

遊佐典昭(2009).「言語を生み出す脳をさぐる」を読む(大津由紀雄(編),『はじめて学ぶ言語学 ことばの世界をさぐる17章』,ミネルヴァ書房)

脳科学への言語学の貢献の重要性を説いた論文で、神経言語学の基本的な内容もわかりやすく説明されています。

遊佐典昭(2009).「言語を生み出す脳をさぐる」.In大津由紀雄(編),『はじめて学ぶ言語学 ことばの世界をさぐる17章』(pp. 231-250).ミネルヴァ書房.

感想:この論文では、まず脳の構成について基本的な内容が説明されていました。具体的には大脳・脳幹・小脳の各部位の説明、大脳新皮質の説明、ブロードマンの脳細胞構築地図、ガルの骨相学、ブローカ野とウェルニッケ野の発見の経緯などが解説されています。次に、人間の言語における構造依存性と回帰性について生成文法の観点から説明がなされていました。次にfMRIによる脳機能研究の成果としてMusso et al. (2003) の研究(構造依存の原理に着目した研究)が紹介され、第二言語習得がUGに依存している可能性が示唆されていました。ただし、UGが言語以外の認知課題でもそれが構造依存しているものであればブローカ野が関連しているというTettamanti and Weniger (2006) の研究も紹介されており、いろいろと考えさせられます。もう一つ、著者ら自身の研究として、第二言語の熟達度と脳活動の変化に関する研究成果が報告されています。この結果によると、6年以上の英語接触のある学習者はそれ未満の英語接触の学習者よりもブロードマンの45野(言語産出が関係)が効率的に機能しており(後者は成績がよいほどこの部位の活動が活発になるのに対して、前者は成績がよいほどこの部位の活動が弱まる)、さらにブロードマンの47野(言語理解が関係)でも同様なことが生じている(後者の学習者は反応時間が長いほどこの部分が活発になるのに対して、前者の学習者は反応時間が短いほど活発になる)ことが紹介されていました。そして、「外国語としての英語の定着は英語の開始年齢だけでは説明できずに(すなわち、学習開始時期は、英語の熟達に決定的な影響をおよぼさない)、6年以上の接触が重要であることを示唆してい」(p. 246)ると述べられていました。とても面白い章で、ここで報告された最後の結果などは小学校英語教育にも大きく関わる点であると感じました。また、個人的にはガル(または骨相学)が考えた言語中枢は左目の下であること、差分法という考え方、右利きの人の約96%が左脳に言語野を持っていること、がとても面白かったです。

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2012年5月 1日 (火)

I.R.ガリペーリン(1973/1974).「「文体」および「文体論」の概念について」(木村崇(訳))を読む(『中京大学教養論集』)

ロシアの文体論学者ガリペーリンが、文体論を進めていくにあたって、どのようなことを考えなければならないかを議論した論考になります。

ガリペーリン,I.R.(1974).「「文体」および「文体論」の概念について」(木村崇(訳)).『中京大学教養論集』,15 (1),223-246.(原著は1973年出版)

感想:著者は、文体論を進めていくにあたって、以下の5点について考えていく必要があると述べます。1点目は「文体ならびに文体論の対象の一般概念」(p. 228)です。「言語学的文体論とは、陳述の(テキストの)基本的内容にとっては補足的である情報を伝える能力を持った、特殊な有標要素の本性や、言語単位の特殊な結合の本性について、またテキストの当該タイプにおいてある表現手段が他の手段に対してとる関係について、研究する学問」(p. 234)と説明され、さらに「文体論的現象の本質はなによりもまず、この現象が他の諸現象に対してとる関係の中に現れる」(p. 234)ことが重要であると指摘されていました。2点目は、「標準語の異種としての言語の機能的諸文体」(p. 228)を研究することが必要であるとされます。そして、「言語の機能的文体は、メッセージの特定の目標の達成に向けられた相互規定的言語手段の体系として定義できるが、その際、これらの手段の相互規定性の性格は、ただメッセージの当該の具体的なタイプにとってのみ典型的である」(p. 239)ということを踏まえた上で研究を進めることが必要と述べられていました。3点目は、文体手法の研究です。著者は「文体手法は、全言語的な表現手段のもつ特徴を、類型化および目的明確化を通じて一般化、「凝縮化」したものとして定義することができる」(p. 241)と考えています。4点目は作家の個人的文体、5点目は指摘言語、が挙げられていました。特に5点目の詩的言語は、コミュニケーションの特殊な形態と考えられています。

ここで議論されていることは現在の文体論でも重要な問題であり、現在でも読む価値が高い論文であると思いました。ただし、少し難解な文献でした・・・。この論文と非常に似た内容を扱っている論文として、以下の論文がありますがありますので、言及しておきます(恥ずかしながら、私はまだ読んでいません・・・)。

Galperin, I. R. (1971). Some principal issues of style and stylistics as viewed by Russian Linguists. Style, 5, 1-20.

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笠松幸一(2002).「コミュニケーション哲学の形成-言語行為論からコミュニケーション行為論へ」を読む(坂本百大・野本和幸(編),『科学哲学 現代哲学の転回』,北樹出版)

オースティンの言語行為論からハーバーマスのコミュニケーション行為論への展開について分かりやすく解説された文献です。以前、著者の笠松先生の他の論文についてこのブログで記事を書かせていただいた際に、今回記事を書かせていただく論文が収められた本をいただきました。大変恐縮しております。

笠松幸一(2002).「コミュニケーション哲学の形成-言語行為論からコミュニケーション行為論へ」.In坂本百大・野本和幸(編),『科学哲学 現代哲学の転回』(pp. 110-120).北樹出版.

感想:著者はまずオースティンの言語行為論について説明します。まず、オースティンが指摘した記述主義の誤謬(発語内行為の問題を発語行為における意味の問題として扱ってしまったこと)について扱い、言語哲学におけるオースティンの貢献が明確に説明されています。次に、オースティンの行為遂行動詞の分析について解説されます。そして、その特徴として「第1人称、単数、直説法、能動、現在形を条件と」(p. 113)して分析がされること、「「言明の成功には様々な程度と種類がある」ゆえに、無効である、大雑把である、等の命題評価を認めなければならない」(p. 113)こと、オースティンの発語内行為の5類型への分類(判定宣告型、権限行使型、行為拘束型、態度表明型、言明解説型)(なお、オースティンはこの5類型は暫定的なものであることを認めており、かつ態度表明型と言明解説型の不明瞭性、言明解説型は他の分類方法ができるかもしれないこと、を認めているそうです)、が紹介されていました。

次に、オースティンの問題点が指摘されます。1点目は、オースティンの理論では発語内行為が一方向言語行為的に考えられているという問題です。会話には、聞き手と話し手両方がかかわるため、双方向的に考えなければならないと指摘されています。2点目は、オースティンの言明解説型という分類が曖昧であるという問題点です(すでに述べましたが、オースティン自身このことを認めています)。そこで、よりよい分類が必要になります。これら2つの問題点の解消を試みる中でハーバーマスが独自の理論を発展させています。ハーバーマスは、1点目の問題点については、話し手と聞き手両方の存在を前提とする理論(話者が自分自身と話す内言的コミュニケーションも含む)を、ビューラーの意味論やミードのシンボリック相互行為論を参考にしながら作り上げました。また、2点目の問題点については、言明解説型を対話型と確認型という2つのカテゴリーに下位区分するなどしてオースティンの5分類を再編し、よりよい分類体系を作り上げています。

そして、ハーバーマスのコミュニケーション行為論について解説がなされます。まず、ハーバーマスはコミュニケーション行為を成立させるには、以下の4種類の行為遂行動詞が必要になると指摘します。それらは、対話型、確認型、表自型、規制型、です。また、コミュニケーションが中断する場合、以下の4種類の妥当要求(聞き返しまたは問い返し)がなされます。それらは、理解性に関わるもの、真理性に関わるもの、誠実性に関わるもの、正当性に関わるもの、です。そして、遂行動詞と妥当要求は、対話型-理解性、確認型-真理性、表示型-誠実性、規制型-正当性、という形で対応していることになるそうです(各型の具体例についてはここでは省略します。より詳しくは本論文をご参照ください。)。そして、4種類の遂行動詞と4種類の妥当要求はそれぞれ普遍的なものであると考えられています。

最後に、本書全体が科学哲学をテーマとしている関係で、科学的知識(または真理)の問題についてハーバーマスの枠組みでどのように説明されるかが解説されます。ハーバーマスの枠組みにおいては、確認型および真理性の妥当要求の中で説明されるようです(真理合意説)。そして、言語共同体の中で複数の人が合意をすることで真理が決定するとされます(「命題の真理とは、同じ対象に私とともに他の人も「同一の述語」を与えるであろうような、私たちの言語共同体における論証と合意を通して決定されることになる。真理合意説は以下の真理性の3要件に依拠している。(A)真理性は外的事実の経験を基礎としている。(B)真理性は討議を可能にする。(C)Bを満たすためにAが満たされなければならない。」(p. 119))。そして、合意ができないときは何らかの理由(権力やイデオロギーなど)でコミュニケーションがゆがめられている可能性があると判断され、合意を回復するために討議がなされることになると考えられています。

オースティンとハーバーマスの関係について詳しく説明されている文献は非常に少ないので、とても貴重な論文だと思いました。しかも、非常にわかりやすく書いてあり、言語哲学時代の語用論の知識があれば理解することが可能であると思います。語用論に関する知識を拡げてくれるとてもありがたい論文でした。

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