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2011年4月21日 (木)

J.D.Picken(2007).『Literature, Metaphor, and the Foreign Language Learner』第2章を読む(「Literature in L2 teaching」,Palgrave Macmillan)

主に外国語学習者のメタファーの理解について書かれた研究書です。私が頻繁に引用している文学の経験的研究の成果もかなり多く取り入れられています。大学院の授業で、院生さんと本書の第2章を読みました。非常に包括的なレビューがされており、文学を使った外国語教育の研究でこれまで議論されてきたことと、これから考えていかなければならないこと(これは文学の経験的研究などの調査研究の成果に基づいて提示されていました)が記述してあり、この分野の入門としてとてもよい章でした。本書の詳細は次の通り。

Picken, J. D. (2007). Literature, metaphor, and the foreign language learner. New York: Palgrave Macmillan. (第2章:Literature in L2 teaching)

感想:著者は文学を使った外国語教育の研究(WWL: work with literature)には、「文学以外にも当てはまる議論」と「文学だけに当てはまる議論」があるとします。そして、さらに前者には「他のジャンルにも当てはまるが文学が得意な議論」があります。著者はいずれも文学の外国語教育での役割について考える上で重要な議論であると考えています。著者は、まず「文学以外にも当てはまるが文学が得意な議論」としてどのようなものがあるのかレビューしていきます。まずは、文学はauthenticityを持っているという議論についてです。この概念について、 "authenticity can be understood in at least two ways: authenticity as a quality of a text, and authenticity as an experience. Literature can be authentic in both senses, but the learners' L2 proficiency is likely to play a role in determininig whether literary texts can be experienced in something like an authentic manner." (p. 12) と述べています。そして、文学に関して、 "One interesting question is whether it is possible to create teaching materials that offer learners not only an authentic experience but also an authentic literary experience" (p. 13) と述べており、このことに挑戦しているのがいわゆるgraded readersであるとしています。次は文学作品は外国語学習への動機づけになるという議論です。文学教材が外国語学習を動機づける根拠としては、文学作品で普遍的なhuman issuesを取り上げる傾向があることと文体がその根拠としてこれまで議論されてきているようです。3点目は文学作品はfocus on formを促すという議論についてで、簡単に触れてありました。4点目は文学作品は学習者が言語の創造性を扱うことを助けるという主張でした。5点目は、(児童)文学は異文化理解を助けるという主張でした。5点目の根拠としては、児童文学作家は子供たちが人間世界へ入る手助けを作品を書くことで行っており、そういった作品を読むことは外国語学習者にとっても役立つのではないかという考えがあるようです。

次は、文学だけに当てはまる議論が紹介してあります。ここでは主なキーワードや重要な関連分野を紹介するという形で進められていました。1点目は前景化についてでした。2点目は文体論についてでした。ここでは、Widdowsonらがよく主張している考えで、文学作品を通して解釈を行う練習ができるという考えが述べられています。3点目は読者反応についてです。読者反応理論に関連した第2言語教育研究がコンパクトにまとめてあり、とても参考になります(p. 22)。4点目はCDAなどに代表される政治的・批判的アプローチです。このアプローチはもともと文学に限った話ではないのですが、非文学作品を文学作品的に読んでいくという形をとることが多いので、結果として文学作品を扱う重要性を支持することになると研究者たちに考えられているようです。なお、Weberの考えを援用しつつ、 "Simply reading literary texts may in itself have a positive, transformative effect on the reader. However, Weber suggests that a critical analysis of the texts may strengthen this transformative potential, and his stylistic-based approach to critical analysis aims to help readers to 'benefit from the potential for positive manipulation of certain literary texts' (p. 165)" (pp. 24-25)と述べている箇所はとても興味を持ちました。外国語教育などではrewriting taskなどがここで紹介されていました。

最後は本書に関連する実証研究が紹介されています。著者は特に読解に興味があり、読解をcomprehension、interpretation、evaluationの3つに分けて考えます。そして、ここではそれぞれの要素に関して先行研究がレビューされていました。まず、comprehensionに関してですが、著者はこれをonline processingとも呼んでいました。psychology of readingや物語文法、文学の経験的研究などが紹介してありました。文学の経験的研究については、Hoffstaedter-Kohn (1991) のような、WWLにとっては不利になるような研究結果も盛り込まれていました。次にinterpretationについてです。著者はこの概念はしばしばevaluationも含んで使われることがあり、意味が研究者によって異なるということを指摘しつつも、non-expertsの読者の研究を行う際には、かえってその方がよい場合もあると述べています。ここでは、point-driven readingなどの研究、文体論、focus-on-cultural understandingといった事柄に関する研究成果が紹介されていました。特に私が興味を持ったのは、Graves and Frederiksen (1991) の研究成果で、文学に慣れていない学習者は読解中に曖昧性に出会ったときに、自分の読解能力が原因でその曖昧性が生じていると考える傾向があるのに対して、エキスパート読者はその曖昧性はテクストの後でそのうち解消されると考える傾向があるという報告でした。エキスパートは曖昧性をそのまま受け入れる性質が強いようです。最後はevaluationとaffective responseです。ここでは、A-emotionやF-emotion、文体論による前景化とevaluationの関係性の研究、Miall and Kuiken、Hoffstaedter-Kohnらによる文学の経験的研究、文体論による視点の研究と文学の経験的研究によるdecenteringの研究など、様々な興味深い研究が詳しく紹介されており、知的好奇心が掻き立てられます。

本書は、これ以降外国語学習者の特にメタファーの理解に焦点を絞って議論がされていきます。メタファーの研究者でなくとも、WWLに関心のある人であれば、第2章だけでもとても読む価値がある一冊です。

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2011年4月 4日 (月)

和泉伸一(2009).『「フォーカス・オン・フォーム」を取り入れた新しい英語教育』を読む(大修館書店)

Focus on FormsからFocus on Formへの流れを具体的な指導例などを基にしてわかりやすく解説されている一冊です。また、適宜SLAの研究成果も引用されており、とても学術的です。Focus on FormやSLAの知識がなくても読むことができ、読み終えた後には関連した学術知識をかなり得ることができます。

和泉伸一(2009).『「フォーカス・オン・フォーム」を取り入れた新しい英語教育』.大修館書店.

感想:著者はまず、本書の背景となる内容(英語教育観、英語学習観、第二言語習得研究とは何か)を整理したあと、伝統的教授法(特に文法訳読式教授法とオーディオリンガル・メソッド)またはFocus on Formsの教授法の問題点を指摘します。そして、次にフォーカス・オン・ミーニングの教授法として内容中心教授法とタスク中心教授法を紹介します。そして、第3のアプローチとしてフォーカス・オン・フォームを紹介します。それぞれが、理論と実践、長所と短所が分かりやすく書かれてあるので、とても包括的に議論を理解することができました。フォーカス・オン・フォームでも理論的な背景をしっかりと押さえた上で、具体的な指導実践例が豊富に示してありました(Doughty and Varelaによる科学の授業の中で過去形と過去条件文を教える実践(リキャストの効果の検証)や中嶋洋一先生の授業実践など)。以下では、特に私が面白いと思った点のみを上げます。

(1) 文法の習得には、インプットの中でそれが使用される頻度、その聞き取りやすさ、意味と形式の関係の明瞭さ、などが複雑に絡み合っている。(p. 21)

(2) 明示的知識と暗示的知識は学習者のパフォーマンスの種類によってその機能が変化する。また、一方が他方へと変化するというよりは、双方が独自に発達し、両者の関係は非常に複雑である。(pp. 21-24)

(3) 転移適切学習(trans-appropriate learning):「学習は、それが行われた状況と同じような認知処理を課する状況に置かれた時に、最も転移が起こりやすく、そうでない状況へは転移が起こりにくい」。(p. 44)

(4) コミュニカティブ教授法には強いバージョンと弱いバージョンがある。前者はコミュニケーションを通して言語を習得するという考えであり、後者はコミュニケーションのために文法や語彙などを学習するという考えである。日本の英語教育では後者が浸透している。(pp. 52-53)

(5) 「タスク中心教授法の基本的な考え方は、まず学習者の実世界での言語ニーズを考えて、そこから学習者のレベルに合わせた教育用タスクを作り、最終的には、学習者が実世界でのタスクに適切に対応できるように育成していくのである。」(p. 96)

(6) Ellis (2003) によると、教育用タスクには状況的真正性と交流的真正性がある。「状況的真正性とは、現実世界での言語使用状況との類似性を表しており、交流的真正性は、状況的には現実世界ではあり得ないかもしれないが、そういった言語使用は行われ得るものと捉えられている」(p. 97)

(7) 「タスク中心教授法では、言語形式を分析したり練習したりする活動は、タスク前よりも、タスク後、もしくはタスク中に導入されることが望ましいとされる。」(p. 100)

(8) これまでのSLA研究をメタ分析したところ、インタラクションはESL環境でもEFL環境でも効果があり、インタラクション直後よりも1週間後以降にその効果が表れているようである。語彙よりも文法に効果が認められている。これは、新しい言語項目を習っても、それを脳内整理して習得に至るのに時間差があることを示しているようである(p. 116)。

(9) 教師は、コミュニケーション方略の指導を積極的に行い、学習者間のインタラクションの質を向上させるように努力するべきである(p. 119)。

(10) 「言語形式とは、音声、語彙、文法、綴りなどのことを指し、どのような「形」を使うかということである。意味内容は、言語形式をもって「何を」伝えるかという伝達内容のことを指す。そして、言語機能は、いつ、どのような場面で、何のためにそれを使うかということである。」(p. 137)

(11) 「伝統的教授法が「教育」を強調し、コミュニカティブ教授法が「自然力」を重視しているのに対して、FonFは「自然力を養育するアプローチ」(nurture-the-nature approach - Gurian, 2007)として捉えることができる。それは、「とにかくよく聴いて、よく読む」ことに全てを託すコミュニカティブ教授法とは異なり、大人の第二言語習得では何らかの外的支援が必要であることを認めている。しかし、いくら教師の助けがあっても、言語の正確さはある程度の時間をかけないと達成できないので、伝統的教授法のように「最初からきちんと押さえていく」のではなく、「最終的に身に付けていく」(Get it right in the end)との姿勢で捉えている(Lightbown & Spada)。」(p. 147)

(12) 日本では、文法シラバスをそのままとしてそれに意味重視の活動などを増やしていくことでFonFへと向かっているが、北米では意味重視のシラバスの中に形式重視の活動を増やしていくことでFonFに向かっており、かなり状況が違っている(p. 149)。

(13) FonFでは、「特定の言語項目が必須、有用、自然となるのは、タスクの構成からそうなるべきであり、「この文型を使いなさい」といった教師の指示によってなされるものではない。タスク・デザインは教師が操作するが、言語使用はあくまでも学習者の主体性を尊重することが大事となる。」(p. 151)

(14) FonFには、他者主導のFonFと自己主導のFonF(self-generated FonF - Williams, 2005)がある。後者は、「学習者が言語理解や算出につまずいた時に、自らの意思で一時的に注意を言語形式にシフトさせる時に起こるものである。」(p. 156)

(15) 「母語習得において、子どもは大人のリキャストに対して敏感であり、リキャストが多く与えられた子どもは、そうでない子どもよりも言語習得が早く進むことが発見されている」(p. 177)

(16) 必ずしも言語習得では正しい形がすぐ習得されるわけではないということを踏まえた採点法として、中間言語採点がある。これは多少の間違いがあっても目標形式を何とか使おうとしているかどうかが採点基準となる(p. 179)。

(17) 日本ではインプットの質をむやみに求める傾向があるが、質はある程度の量が保障されない限り、意味をなさない(p. 219)。

(18) 言語分析活動は、その言語項目の即時の習得や定着を目指すのではなく、言葉に対する感受性を育成することを目指すべきである(pp. 227-228)。

(19) 言語能力の下位能力を養成するために、シャドーイングと音読が有効である。前者は音声知覚の自動化に、後者は文字として提示された単語の認知の自動化に効果があると考えられている。コミュニケーションに必要な語彙力や文法力、推論能力といった上位レベルの能力を養成するのにはi + 1レベルのインプットが望ましいが、下位のレベルの能力を養成するには、i - 1 や i - 2 のレベルが適切である。(pp. 229-230)。

(20) 受験が原因でコミュニケーション能力が養成できないということが指摘されるが、イスラエルなどの事例をみる限り、テストの波及効果はとてお複雑であり、プラス面だけでなくマイナス面の効果もある。入試を改革することも英語教育を変えていく大きな要素ではあるが、究極的には教師ひとりひとりの教育観が変わらない限り、英語教育の変革はむずかしいであろう。(p. 239)

(21) 英語学習の目的を模倣ネイティブから流暢な第二言語の使い手へと変えていくことが必要である(pp. 244-246)。

そのほか、インプットの単純化(simplification) よりも詳細化(elaboration)の方が重要であるという指摘(p. 106)や、形式重視の活動は意味重視の活動の間にはさむとよい、といった研究成果も報告もあり、とても納得させられました。また、日本の英語教育向上のための提案として、「理解可能な i + 1 のインプットを豊富に与える」、「言葉の伝える意味内容に注目する」、「インタラクションを持つ」、「タスクを活用する」、「フォーカス・オン・フォームの指導をする」、「言語意識を高め、気付きを促す」、「言語能力の基礎指導を行う」、という提言がなされていました。

最後に本書の章立てを示しておきます。

第1章:英語教育観と第二言語習得研究

第2章:伝統的教授法

第3章:コミュニカティブ言語教授法1:内容中心教授法

第4章:コミュニカティブ言語教授法2:タスク中心教授法

第5章:第3のアプローチ:フォーカス・オン・フォーム

第6章:フォーカス・オン・フォームの実際

第7章:これからの英語教育の挑戦

付録:FonFを取り入れた英語授業案

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