Groeben (1980)
この論文の詳細は次の通り。
Groeben, N. (1980). Empirical methods for the study and interpretation of literature. Discourse Processes, 3 (4), 345-367.
感想:日本英文学会@東京大学駒場キャンパスに行く途中に読んだ論文です。文学の経験的研究の黎明期の論文ですので、今読んでも特に新しいことはないかもしれません(ただし、統計分析などにあまりなじみのない人にとっては新しい情報があるかもしれません)。冒頭の部分で述べられていることは、反証可能性の大切さ、間主観性の重要性(ただし、ここで述べられているのは実証的なデータに基づいているという程度の意味です)、主体と客体の区別、読者と調査者の区別、といった点が説明されていました。また、著者自身が考える、文学の経験的研究の概要についてもまとめてあります(p. 347)。
また、文学の経験的研究の扱う事柄として、"This undertaking demands further, more comprehensive explanations regarding the conditions of literary communication, e.g. structures of the artistic personality, author intentions, reader variables, questions of effects, and many more." (p. 348)と述べ、Schmidt (1981)の考えに賛成しているようです。
また、著者はpolyvalenceということをキーワードとして研究してきています。以前は、polyvalenceが強く機能しているテクストが文学の中で社会的にも歴史的にも最新であり、大部分であるということを一般的な方法で示そうとしてきたそうですが、現在は体系的な研究方法に基づいて示そうとしてきています。著者は述べます。"Literary works are to be viewed as a constant integration of two opposing tendencies: indeterminacy vs. determinacy, certainty vs. uncertainty, fulfillment vs. violation of aesthetic norms, entropy vs. redundance, or however they be called. ... Polyvalence is a cenessary condition of aesthetic experience, as has been experimentally confirmed. ... It is a particularly crucial condition because it represents the most complex case (e.g., the maximally polyvalence text), so that simpler cases can be covered by reduction - whereas the reverse (working on complex cases with simple conceptions) is not feasible. Thus, the central role of polyvalence is justified on systematic methodological grounds." (p. 348)
次は研究方法についてです。これは、調査系の研究になじみのある人にとっては現在ではかなり当たり前の話になってしまっていますので省略したいと思います。大雑把に言えば、文学作品の解釈を実証的に調査するためには、どういう手順で研究を行なっていけばよいのか、どういう問題点について考える必要があるのか、どういう調査方法を採用すればよいのか、といったことが整理してあります(p. 350)。論文内では表にしてまとめてありますので、興味のある方はご参照下さい。
最後は文学の経験的研究の研究例が示されています。ここでは調査方法の例示に重きがおかれていますので、調査の内容自体はあまり深く言及されていません。クラスター分析と相関分析が例示してありました。そして、これらの統計分析法を使いながら、あるテクストに対してどういった読み方(形式主義的、人間学的、精神分析的、マルクス主義的)が一番妥当と言えるのかが議論されています。いくつかの研究が簡単に整理されているだけですので、この論文だけでは少し調査の内容が把握しづらいのが残念なところではあります。現在の文学の経験的研究では、このような分りにくい書き方はすることはないですが、研究分野の初期の論文ですので仕方がないことかと思います。
文学の経験的研究の創始者の1人ですので、興味のある方は一読してみるのもいいかもしれません。ただし、この論文を読む際は、Groebenがどのようなことを考え、文学の経験的研究という文学理論の1分野をどういった研究体制にしていこうと構想しているのか、という点に重きを置いて読んだ方がいいと思います。具体的な作品解釈の研究としてどうやって研究デザインを立てればいいのかということについては現在の他の論文を読んだ方がいいと思います。


コメント