Sposet (2008)
本書の詳細は次の通り。
Sposet, B. (2008). The role of music in second language acquisition: A bibliographical review of seventy years of research, 1937-2007. New York: The Edwin Mellen Press.
感想:
第1章:Introduction
この章では、本書の目的が述べられています。”The purpose of this work is to present a bibliographical review of seventy years of research on the role of music in second language acquisition.” (p. 1)そして、具体的な目的として、”1) a summary of teaching models utilizing music in the acquisition of a second language; 2) examples of implementation strategies utilized during the introduction of a second language; 3) examples and resources for implementation of the strategies utilized from elementary to adult learning situations; and 4) an analysis of empirical and non-empirical research available on the topic.” (p. 1)が挙げられています。
第2章:A rationale for the use of music in the second language classroom
音楽を外国語教育に使うということの理論的背景としては、Krashenのcomprehensible inputとaffective filterというものが指摘されていました。また、グーテンベルグが活版印刷を発明する前は、音楽は教育において最も有効な手段とみなされていたそうです。そして、現在でも音楽が外国語教育の中で用いられているのですが、その有効性を支える研究が列挙されていました。それらは、(1)神経言語学的証拠(脳において言語野と音楽を司る部位は非常に近く、実際に音楽は言語学習を促進するという結果が得られている)、(2)文化的側面からの証拠(音楽は文化間比較やアイデンティティーに関係する)、(3)経験上の証拠(音楽のフレーズは実際に頭の中に残っている)、(4)multiple-intelligenceという考え(人間の知能は8分野に分けられ、音楽はそれらを統合しながら発達させることができる)、(5)記憶の促進(脚韻などのおかげで、語彙、音韻、スペル、構造、受容的技能、産出的技能、チャンクなどが記憶に残りやすい)、です。(5)記憶の促進というものを支える理論的背景として、著者は社会文化理論とemotional intelligenceを引き合いに出していました(これらの詳細は本書を参照下さい)。
第3章:Strategies focusing on the use of music in the second language classroom
Karimerの研究を引用しながら、著者は20世紀以前の状況をまとめることからこの章を始めていました。中世にあっては音楽と言語学習は非常に強く結びついていたそうです。”Students were introduced to a second language through a chant entitled “Song School”. After the rhythm and flow of the language had been drilled through the chant, the student then began his/her formal study of the second language, usually Latin.” (p. 9)その後、Alexander BellやPeter Guberinaといった学者によって音楽を使った外国語教育は実践され、20世紀に入ってからも、彼らの考え("sounds were presented and/or drilled with a phonological and/or grammatical structure and, when possible, were taught in a context involving some emotional or physical reactions” (p. 9))を継承した教授法が多く残っています。代表的なものとしては、学習者を半催眠状態にする中で展開する学習法と睡眠学習があるそうです。
この章の以下では、具体的な教授法が取り上げられていました。取り上げられていたのは、(1)LozanofによるSuggestopedia、(2)AntonのThe Contemporary Music Approach(CMA)、(3)Gouinのthe Series Methodを発展させたAsherによるTotal Physical Response(TPR)及びその更なる発展形であるRayのTPR-Storytelling(TPR-S)、(5)GrahamによるJazz Chants並びにGoodgerによるFun Songs Approach(Jazz Chatsの一種)、です。それぞれの教授法の中でどのように音楽が用いられ、その効果や利点及び欠点が簡潔にまとめられていました。各教授方については本書ないしは教授法史関連の文献をご参照下さい。
第4章:Implementation of music in the second (other than English) language classroom
この章全体で感じたことは、実践者は音楽をテキストと(文法的観点及び内容的観点から見て)うまく調和して使っているということと、発音指導に力が入れられているということです。この章で取り上げてあった事柄は、immersion(メロディーにストーリーやdaily routine and commandsを合わせていくという活動など)、初等学校外国語教育、中等学校外国語教育(BironのPACE approach、Jazz chants、色によるinput enhancementのことなどが紹介)、高等学校外国語教育(Kramerによる研究、著者自身による研究、Clearyによる研究、Goodwin-JonesによるMP3やiPodを使った試みが紹介)、大学外国語教育(ヒップホップやポップ音楽を使った研究、ConradのThree-Prong Approach、前章で挙げたAntonのCMA、Oleaによる研究、MP3やiPodを使った試みが紹介)、でした。また、Rosell-Aguilar (2007)は歌の様々な教材の有用性や効果などをSLA理論の観点から検討しているそうです。
第5章:Implementation of music in the second language (English) classroom
本章の冒頭で、著者はアメリカでの非英語母語話者に対する英語教育の変遷をレビューします(音楽とは関係なし)。そして、現在では歌やナーザリー・ライムが子供や大人両方を対象とした英語教育に用いられているということを指摘していました。これらは語彙学習や文化学習に大きく貢献するようです。そして、著者はMedina (2000)(100の活動を提案し、それらは歌導入前、歌学習中、歌学習後の3つのタイプに分類)、Murphey (1992)、Lems (2001)、Griffe (1990)による研究(ビートルズの曲の利用)や、Poppleton (2001)による授業における歌使用についての注意事項が紹介されています。いずれも面白い試みです。詳しくは本書を参照下さい。また、最後にアメリカにおける音楽を使った英語教育の歴史を簡単にまとめています。最古のものは、Meriam (1932)であり、その後様々な研究がされてきたそうです。Reimannが2006年に一連の研究のメタ分析を行なっているとのことでした。
第6章:Methodology
本章では、次章で著者が行なう調査の方法が簡潔にまとめられています。著者はGlassらによって提案されている古典的なメタ分析を行なうそうです。調査の対象(データ)の母集団は、(1)music & grammar、(2)music & verbal communication、(3)music & writing、(4)music & language learning which included listening and writing skills, lexical structure, accent and cultureという4つのトピックに関わる59編の論文です。それらの研究の対象言語は様々であり、また研究のタイプも実験的なものと非実験的なもの両方が含まれているそうです。
第7章:Results of the data gathering
この章では、前章で集められた文献の中で音楽と第二言語しゅうとくの関係を扱った23本の研究(1937~2007年)がベタに記述されていました。個別の研究の記述は本書をご参照下さい。それにしても、実に色々な試みがなされているということに関心したと同時に、男女による効果の違い、音楽を使うと学習者の外国語学習への態度が能動的になること、学習者は音楽を使った指導を楽しいと感じること、などが何度も指摘してありました。この分野に関心のある研究者にとっては非常に豊富な情報が含まれていると思いました。
第8章:Summary of the data
ここでは、前章で記述した23の文献を一覧表にしてまとめてありました。第7章と合わせて読むと、議論を見失うことなく読み進めることができると思います。また、音楽の外国語学習に対する効果を示した研究とそうでない研究の数も一覧表にしてあるので、議論の全体像を見ることを助けてくれます。
第9章:Discussion
ここでは結果のまとめが行なわれていました。特に重要ないし興味深いという点だけに絞って紹介させていただきますと、(1)音楽は語彙や文法、発音などを指導するために多く使われていること、(2)先行研究のうちの65%が音楽の外国語学習に対する効果を示していること、(3)18歳以上の学習者には音楽はとても効果があること、(4)K-8の学習者には英語以外の外国語学習で最も大きな効果が示されていること、(5)音楽の外国語教育に対する効果を示した研究の内の75%が非実験的な研究であったこと(音楽の効果を示さなかった研究はほとんどが実験的な研究であり、追実験や様々な調査方法が試されるまでは、音楽の効果について結論を示すのは難しそうです)、でした。
第10章:Implications for second language educators
調査全体を通して、音楽は発音に特に効果的であると言えそうだと著者は述べます。それ以外に指摘されていたこととしては、(1)男の子の方が女の子よりも音楽によって外国語学習が促進されるようであること、(2)音楽とイラストを組み合わせると更に効果的である(かもしれない)こと、(3)23本中20本の研究で音楽は学習を楽しくさせると調査参加者が報告していること、(4)iPodやiTunesなどのおかげで音楽を使った外国語学習の実践が以前に比べて飛躍的にやりやすくなったこと、です。また、Waston (2004)の言葉を引用する形で、”music in the second language classroom can maximize student performance in ways that transform them from passive to active learners (i.e. ACTFL’s communicative competency goal) without ignoring their development in the accuracy and complexities of the language to be used.”(p. 92)と述べられていました。
第11章:Implications for future research
ここで指摘されていたことは、(1)K-12の学年での研究がもっと必要であること、(2)音楽の効果を示した研究について調査方法を変えるなどしながら追調査を行なう必要があること、(3)マイナー言語についての研究も必要であること、(4)第二言語学習のためのmotivational factorという観点から音楽の効果を測定する研究が必要であること、でした。
本書には膨大なAppendixがついており、音楽を使った第二言語教育を実践しようとする場合にはとても有益な情報が詰め込まれています。論文の書き方や引用などには少し不備が目立った気がしたのですが、音楽と外国語教育の関係についての研究をここまでまとめたものはそうはないと思いますので貴重な文献だと思います。特に英語教育学では、卒論などでこのトピックは散見するんですが、いつも学部生が文献がなくて困っているのを大学院生時代に見かけました。この本はそういった学生に紹介するものとしてはとても役立つと思いました。


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