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2008年5月14日 (水)

龍城正明(2006).「ことばを伝える テーマの展開」を読む(龍城正明(編),『ことばは生きている 選択体系機能言語学序説』,くろしお出版)

龍城正明(2006).「ことばを伝える テーマの展開」.In龍城正明(編),『ことばは生きている 選択体系機能言語学序説』(pp. 85-98).くろしお出版.

感想:本章では、テクスト形成的機能が主に関わるとされる言語の側面(特に主題と題述)を取り上げ、節と節の間の関係について論じていきます。

Hallidayは主題と題述という考え方を主にプラーグ学派から学んだとされていますが、著者によると細かい部分ではプラーグ学派のそれと選択体系機能文法のそれでは意味合いが違っており、注意が必要だそうです。

まず、主題の下位分類が提示されます。経験的機能に関係が強い話題的主題、対人的機能との関係が強い対人的主題、テクスト形成的機能との関係が強いテクスト形成的主題です。これらについての詳しい説明はここでは省略しますが、とても分かりやすい説明がなされています。また、主題の定義として、「節頭から過程構成的機能をもつ要素のうち、最初に具現する過程構成要素にまで及ぶ」(p. 91)というものが示されていました。また、主題は必ず話題的主題を含んでいますが、それ以外のものとも共起することが多く、そのような主題は多重主題と呼ばれています。

本章の残りの部分では、多重節における主題構造の分析の一例が示されていたのと、有標と無標という概念について触れてあり、とても興味深かったです。僕の研究との関連で言えば、特に有標と無標の部分はとても勉強になりました。また、プラーグ学派ではチェコ語といった語順が比較的自由な言語の分析がなされ、そのような中で主題と題述という概念が考案されたという背景があるそうで、とても面白く読みました。

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2008年5月13日 (火)

船本弘史(2006).「ことばを交わす 話し手と聞き手の語彙文法」を読む(龍城正明(編),『ことばは生きている 選択体系機能言語学序説』,くろしお出版)

本論文の詳細は次の通り。

船本弘史(2006).「ことばを交わす 話し手と聞き手の語彙文法」.In龍城正明(編),『ことばは生きている 選択体系機能言語学序説』(pp. 61-84).くろしお出版.

感想:本章は特に対人的機能から来る文法的な側面について概説されていました。対人的機能は節の文法構造によって具現され、これは叙法と呼ばれています。そして、叙法は選択体系機能文法の中で語彙文法層で扱われることになります。まず、基礎的発話機能について説明がなされます。これは交換されるもの(品物/サービスvs.情報)×交換における役割(付与vs. 要求)の交差により構成され、提供、陳述、命令、質問、という4つのものが認められています。そして、聞き手によるこれらへの対応を二次的発話機能と呼んでいます(詳細はp. 68参照)。

次に、節の叙法構造についての説明です。叙法構造は叙法部(会話の進行に寄与する部分)と残余部(それ以外の部分)から構成されています。更に叙法部は、主語と定性から構成されているとされます。定性は主語を核とする命題を具体化します(時間的情報や真実らしさなどを明示する)。更に定性は具現位置を変化させることで発話機能を変化させるため、オペレーターとも呼ばれます。また、定性は動詞の過去形に見られるように、過程中核部の意味と融合している場合もあります。

定性が具現する意味には時制とモダリティーがあります。ここではモダリティーについて少し踏み込んだ説明がなされていました。モダリティーにはモダライゼーション(下位分類に蓋然性と通常性がある)とモデュレーション(下位分類に志向性と義務制がある)に分かれます。そして、その可能性の高さに応じて、高位、中位、低位、という価を持つとされています。しかし、モダリティーは更にその両極に肯否極性を持つと考えられています。したがって、モダリティーとは、肯定と否定を両極に持つ連続体として考えられていると言えます。

次は残余部についてもう少し踏み込んだ説明がありました。残余部は述部と捕部から構成されます。述部は動詞を中核とする動詞群のことであり、捕部は目的語や補語のことです。

次に付加詞について説明されていました。これは節中で比較的自由に様々な場所に具現することができますが、定性と違ってその位置によって本質的な発話機能の具現には貢献しません。付加詞には、3つのメタ機能に応じて、状況付加詞(経験的機能)、接続付加詞(テクスト形成的機能)、モーダル付加詞(対人的機能)、の3種類があります。p. 80には更なる下位分類も示してあります。

さて、本章の最後の部分では、叙法選択体系網を使った節の分類について説明されています。叙法についてどのような選択を行なうかによって、その節が、叙述法、付加叙述法、感嘆法、Yes-No疑問法、Wh疑問法、命令法に分かれます。これらのうちいくつかには分析の際の注意事項も示されており、実際の分析には有用だと思いました。

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2008年5月 6日 (火)

池上嘉彦(1981).「コミュニケーションの二つの型と教育」を読む(『教育と医学』)

本論文の詳しい情報は次の通り。

池上嘉彦(1981).「コミュニケーションの二つの型と教育」.『教育と医学』,29 (9),2-3.

感想:とても短い論文なのですが、面白いことが書いてありました。まず、当時流行していた文化の記号論は、文化を言語として読むことであるという点です。「しかも、多くの文化的対象は、言語のようにまず第一にコミュニケーションを意図するものではないから、その解読にはもっと私たちの方での主体的な働きかけを必要とする。どの部分をまずメッセージとして受け取るかということからして、受信者の課題となる。」(p. 3)

そして、このことは芸術的コミュニケーションでも生じていることであり、読者は一見完結しているかに見えるテクストを、コンテクストに適切に位置づけ、どの部分に意味を読み取るか、読者が主体的に判断しなければなりません。このような状況では、読者は作者とほぼ同じレベルでの意味創造が必要となります。

最後に、教育ということについてですが、日本は伝統的には<なる>教育が盛んで、弟子は師の言葉や振る舞いにメッセージを見出し、背後にあるコードをゆっくりと時間をかけて身につけていたそうです。しかし、最近は<する>的な教育の推し進められ、実際かなり形が整えられてきました。そんな中で、著者は<なる>教育を現代的な立場からもう一度問い直す必要性を感じているようです。

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龍城正明(2006).「ことばを理解する 単語と節の関係」を読む(龍城正明(編),『ことばは生きている 選択体系機能言語学序説』,くろしお出版)

詳しい文献情報は次の通り。

龍城正明(2006).「ことばを理解する 単語と節の関係」.In龍城正明(編),『ことばは生きている 選択体系機能言語学序説』(pp. 37-60).くろしお出版.

感想:この章では、観念構成的機能に属しているとされる、経験的意味をどのように節が表わしているのか、その分析方法が示されていました。経験的意味を表わすには、事物、事象、状況、という3要素がキーとなるそうです。これら3つは日常的には単語によって具現され、それらが集まって節を作り上げています。

この文法理論の中では、節は、動詞を中心として話しての内容を表現する過程を示していると考えられています(p. 38)。そして、その過程中核部(主に、動詞及びそれにくっついている助動詞などから成る)、過程中核部によって明確にされる事物を表わす参与要素(主に名詞群などから構成されることが多い)、状況を表わす状況要素(副詞群や前置詞などによって構成されることがほとんど)、という概念を使って、話しての内容を表わす過程を分析します。これは、過程構成(transitivity)と呼ばれ、文法構造ないし節を意味化する構造分析です。こうすることで、従来の文法範疇による分析では捉えることができなかった、経験的な意味の差異を分析することが可能となります。

次に、過程中核部に注目し、6つの過程型を個別に見ていきます。6つの過程型とは、物質過程、行動過程、心理過程、発言過程、関係過程、存在過程、で、それぞれどのような過程中核部が選択され、それによりどのような参与要素が必要となるのかが説明されていました。また、これら6つの過程型はお互いに重なり合う部分があると考えられており、それぞれが同じ円の一部を占有していると考えられています(有名な円の図がありますが、そのことを思い出せば分かりやすいかと思います)。各過程型の説明は本書に詳しく書いてありますので、割愛します。

さて、次に状況要素についてその分類がなされております。大きく9つに分類されます(p. 53)。一覧表が載せてあり、とても理解しやすいです。次は、The window opened widely with no sounds.といった文に他動的解釈を与えるのではなく、起動的(ergative)解釈を与えることで、節の意味と分析方法をより一貫性のあるものにするという点が説明されていました。

本章の最後では、過程構成の選択体系網が示され、よいまとめとなっています。最後に注意すべきものとして、本章で示されたのは、英語を分析するための過程型だということです。それぞれの言語を話す人が固有の経験的意味があるのと同じように、各言語に固有の過程構成があり、個別な研究が必要であるということが指摘されていました(p. 60)。これまで、選択体系機能文法の観念構成的機能の分析について全体像をしっかりと把握していなかったので、とてもよい勉強になりました。

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2008年5月 4日 (日)

T.R.Bex(1994).「The Relevance of Genre」を読む(R.D.Sell&P.Verdonk(編),『Literature and the New Interdisciplinarity: Poetics, Linguistics, History』,Rodopi)

本論文の詳細は次の通り。

Bex, T. R. (1994). The relevance of genre. In R. D. Sell & P. Verdonk (Eds.), Literature and the new interdisciplinarity: Poetics, linguistics, history (pp. 107-129). Amsterdam: Rodopi.

感想:関連性理論と選択体系機能文法を理論的背景とした論文で、Fishの議論(テクストのパターンや言語構造自体に文学性を全く認めないという立場。むしろ解釈という行為がそれらを文学的にしているとする立場。)への批判がなされていました。著者は、ジャンルというものがあり、それは社会の或る期待などが具現されたもので、作者は読者がその期待を顕在化するように(または相応しい読みが適用できるように)あるテクストパターンないし、言語パターンを用いてテクストを書いている、と考えています。

一般に話し言葉では、物理的設定によってその話のジャンルの特定が補助されます(講義は講堂で行なわれるなど)。しかし、作者は読者がどのような物理的設定の中でそのテクストを読むか、どのような前提を持ってそのテクストを読むのか、といったことを特定化することはできないため、書記素的な情報に頼ると述べられています(p. 116)。

また、Bex自体は、以前はジャンルはレジスターの選択を予測することはできないと考えていたようですが、どうやらレジスターはあるジャンル内での可変性に特定の範囲があるようだという風に考えを改めています(p. 118)。というのは、レジスターによって、そのテクストがあるジャンルに属すものなのか、単なる皮肉なのか、が判定できる場合が多いためです(p. 117。Cookの議論などが面白かったです)。

また、著者はある特性の有無でそのジャンルが決まるのではなく、関連する特性のテクスト内での集積が読者にそのテクストのジャンルを判断させるとしています(p. 119)。そして、間テクスト性を強く持ったテクストや、コンクリート・ポエトリーなどがなぜ同じ文学というジャンルの中にまとめられているのかを、具体例とともに議論していました(やはり、ジャンルに関する前提といったものがとても重視されています。関連性理論の影響が強く出ていると思いました。)。

最後に、この論文の主旨とは関係ないのですが、なぜ20世紀はコンクリート・ポエトリーに行き着いたのか、ということについてのSteinerの考えが載せてありました。20世紀の芸術は、言語のシンボル性の克服に努めてきたそうです。そして、イコン性やインデックス性を強調しようとしてきたそうです。その結果がコンクリート・ポエトリーというわけです。

この論文には、色々と面白そうな先行研究も挙げてあり、とても楽しく読めました。また、いい勉強にもなり、とてもよかったです。

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2008年5月 2日 (金)

佐藤勝之(2006).「ことばを使う テクストと社会の関係」を読む(龍城正明(編),『ことばは生きている 選択体系機能言語学序説』,くろしお出版)

本論文の詳細は次の通り。

佐藤勝之(2006).「ことばを使う テクストと社会の関係」.In龍城正明(編),『ことばは生きている 選択体系機能言語学序説』(pp. 19-36).くろしお出版.

感想:この章では、文化のコンテクスト(ジャンル)と状況のコンテクスト(言語使用域)とは、それぞれどのようなものであるのか、例を用いながらより詳しく説明してありました。各言語には経験の解釈構築(p. 22参照)というものがあり、これは人々の価値観や価値と規範の体系であるイデオロギーに影響されます(文化のコンテクストは価値観やイデオロギーを含んでいると考えられています)。

ジャンルは段階的なものであり、かつ目標指向的なものです(p. 25)。本章では売買における会話の例を用いて具体的な議論がなされています。そして、HasanやVentolaの研究に基づいて、このジャンルの統合的関係が記述されていました。

次に、状況のコンテクストについて具体的な議論がされます。文化のコンテクストが潜勢力とすれば、状況のコンテクストはその実体化にあるそうです。そして、状況のコンテクストで具現された形が言語使用域となります。後は、3つの機能的側面の説明などがなされており、各側面に変化が生じると、どのような変化が生じるかが示されていました。最後のページに示してあった、Martinの図式が、この章のよいまとめとなっていました。とても面白い章でした。

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2008年5月 1日 (木)

堀素子(2006).「ことばについて考える 選択体系機能言語学(SFL)への誘い」を読む(龍城正明(編),『ことばは生きている 選択体系機能言語学序説』,くろしお出版)

本論文の詳細は次の通り。

堀素子(2006).「ことばについて考える 選択体系機能言語学(SFL)への誘い」.In龍城正明(編),『ことばは生きている 選択体系機能言語学序説』(pp. 1-18).くろしお出版.

感想:素晴らしいイントロの章でした。選択体系機能文法の全体像や基本的なスタンスが分かりやすく解説してあります。「社会の中で使われている言語の機能」という考え方がこの言語理論の根本にあるということが指摘されていました(より具体的な内容もp. 2に示してありました)。選択体系機能言語学は、節(主語と定性を含む単位)をその基本単位として、その節(あるいは複数の節)が概念を言語で具現化した意味のまとまりをテクストと呼びます。テクストは体系を具体的に示す例として位置づけられています。

この言語学では、構造言語学で発達した統合的関係と連合的関係を重視しており、特に後者を選択体系と呼んで理論の中心としています。本章では、肯否極性のデリカシーのレベルを具体例として、その選択体系網が例示してありました。この選択網の中にも構造言語学がそうであったように選択と排除という考えが表裏一体で働いています。そして、この選択基準(または排除基準)にはコンテクストという層を見る必要があると言います。具体的に言語の階層化の図が示してあり、とてもわかりやすいです(p. 9)。語彙と文法は同じそうに置かれているのもとても面白いと思いました(上位から下位の順序に従って、コンテクスト、意味、語彙文法、音韻、音声という順)。上位の層は下位の層によって具現化されることになります。

次に言語使用域について説明がなされます。言語使用域は、活動領域(field)、役割関係(tenor)、伝達様式(mode)という要素から構成され、それぞれの要素が変化するとその言語使用域も変化します。これは状況のコンテクストが具現されていると考えられています。これに対して、各要素が変化しても変わらないような言語パターンをジャンルと呼びます。これは文化のコンテクストとも呼ばれます。最後に、とても有名な、言語のメタ機能について説明がなされていました。これはとても有名なので割愛します(pp. 14-17)。

とても優れた概論の論文でした。勉強になりましたし、これまで曖昧になっていた部分を整理することができたと思います。

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