2023年10月20日 (金)

文学を使った英語教育研究に関わる書籍

近年、文学を使った英語教育関係の研究は様々な論文や書籍が出版されています。以前は、Widdowson氏やCarter氏、McRae氏、Collie氏 & Slater氏など、いわゆる定番の文献を読んでから研究をスタートするという形が多かったですが、ずいぶんと文学教材を取り巻く状況は(日本国内は別にして、少なくとも世界的には)変化し、それに応じた新しい研究も多く出版されています。個人的には、L1での文学読者の読解処理を実証的に調査する研究(文学の経験的研究)、L1での文学指導研究(Language Artsの指導研究)、外国語環境での文学指導研究(いわゆる文学を使った英語教育研究)を読むことが多いので、ここ1年ほどで大いに影響を受けた書籍を挙げておきます。他にもたくさんあるのですが、とりわけ影響を受けたなと思うのは以下の書籍です。

 

Kuiken, D., & Jacobs, A. M. (Eds.). (2021). Handbook of empirical literary studies. De Gruyter. 

Peskin, J., & Hanauer, D. I. (2023). A life with poetry: The development of poetic literacy. John Benjamins. 

Bland, J. (Ed.). (2018). Using literature in English language education: Challenging reading for 8-18 year olds. Bloomsbury.

Bland, J. (2023). Compelling stories for English language learners: Creativity, interculturality and critical literacy. Bloomsbury. 

Echevarría, M. M. (Ed.). (2023). Rehumanizing the language curriculum. Peter Lang. 

 

これから文学を使った英語教育研究を始めようとする人にはおすすめです。

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2022年10月25日 (火)

文学読解モデルを提案している論文

近年、文学読解について文学の経験的研究という領域を中心として実証的な研究が特にL1で進められています。そのような実証的な研究の理論的基盤として使用できるモデルがいくつか提案されています。いずれも文学読解を多面的に捉えているという点では共通していますが、failed foregroundingはL1読者であっても読み間違いなどを犯しうるということを織り込み済みのモデルになっており、文学を使った英語教育について考えるにあたっては大変参考になります。

Graf, L. K. M., & Landwehr, J. R. (2015). A dual-process perspective on fluency-based aesthetics: The Pleasure-Interest Model of Aesthetic Liking. Personality and Social Psychology, 19(4), 395–410. https://doi.org/10.1177/1088868315574978

Harash, A. (2021). The model of failed foregrounding. Psychology of Aesthetics, Creativity, and the Arts, Advance online publication. https://doi.org/10.1037/aca0000419

Jacobs, A. M. (2015). Neurocognitive poetics: Methods and models for investigating the neuronal and cognitive-affective bases of literature reception. Frontiers in Human Neuroscience, 9, Article 186. https://doi.org/10.3389/fnhum.2015.00186

 

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2021年11月12日 (金)

勉強になった論文

ずいぶん更新が滞ってしまいました。アカウントがロックされてしまうのを防ぐ意味でも、最近読んで勉強になった文献を備忘録的に掲載しておきたいと思います。

 

●Sauro, S., & Sundmark, B. (2016). Report from Middle-Earth: Fan fiction tasks in the EFL classroom. ELT Journal, 70 (4), 414-423.

TolkinのThe Hobbitに基づくファンフィクションを利用した言語活動が外国語教育の中で報告されています。

 

●Menninghaus, W., & Wallot, S. (in press). What the eyes reveal about (reading) poetry. Poetics.

詩の読解プロセスをアイトラッキングの技術を使って調査した実践研究です。

 

●Cushing, I. (2018). “Suddenly, I am part of the poem”: Texts as worlds, reader-response and grammar in teaching poetry. English Education, 52 (1), 7-19.

英語母語話者用の活動を報告した論文ではありますが、文法に意識を向けながらどのように英語詩を教材として利用していくか、具体的なアイデアが示されています。

 

●Gӧnen, S. I. K. (2018). Implementing poetry in the language class: A poetry-teaching framework for prospective English language teachers. Advances in Language and Literary Studies, 9 (5), 28-38.

英語詩を授業で扱うにはどのようにすればよいのか、教師向けにそのステップが示されています。研究の背景に関する情報も充実しています。

 

●Hanauer, D. (2001). The new critical method revisited: Explicit modeling, open discussion and the development of literary knowledge. FRAME: Journal of Literary Studies, 15, 12–37.

20年間ずっと探していた論文ですが、ついに入手し読むことができました。専門家の解釈の提示とオープンディスカッションで、どちらが学習者(母語話者)の解釈に資するかを調査した論文です。この論文では、専門家の解釈を提示された場合の方が、学習者は自身の解釈の中に様々な文学的パターンを取り込むことができていたという結論が示されています。

 

●Müller, H.J., Geyer, T. Günther,F., Kacian, J., & Pierides, S. (2017). Reading English-language haiku: Processes of meaning construction revealed by eye movements Journal of Eye Movement Research, 10 (1), 1–33.

英語母語話者が英語俳句を読むプロセスをアイトラッキングの技術を使って調査した研究です。

 

●Murphy, S., Culpeper, J., Gillings, M., & Pace-Sigge, M. (2020). What do students find difficult when they read Shakespeare?: Problems and solutions. Language and Literature, 29, 302–326.

英語母語話者がシェイクスピアの作品を読む際にどのような点につまずくのかを調査した研究です。

 

●Alter, G., & Ratheiser, U. (2019). A new model of literary competences and the revised CEFR descriptors. ELT Journal, 73 (4), 377-386.

文学能力モデルが新しいCEFRの枠組みと関係づけながら示されています。またCEFRで言うところのPre-A1レベルから文学能力を育成するための活動例も提示されています。

 

●Paran, A., Spöttl, C., Ratheiser, U., & Eberharter, K. (2021). Measuring literary competences in SLA. In P. Winke & T. Brunfaut (Eds.)., The Routledge handbook of second language acquisition and language testing (pp. 326–337). London Routledge.

文学能力の評価という問題について、いくつか具体的な実践報告等をベースとしながら今後の方向性が議論されています。

 

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2020年11月29日 (日)

A.Ensslin(2012).『The Language of Gaming』を読む(Palgrave Macmillan)

主にTVゲームに関わる言語使用が分析されています。ゲーム作成者の言語、ゲームプレイヤー同士の言語、ゲーム内の登場人物の言語、ゲーム内のコマンドの言語、ゲームのパラテクスト(ソフトが入った箱やそのゲームの宣伝など)の言語が幅広くかつ多角的に分析されています。また、ゲームに関わる語形成についてもかなり詳細な事例が挙げられていました。発行されてから少し年月が経っており、VRも身近になってきた現在では少し情報的に古くなっているところもあるのですが、新しいジャンルの言語を分析する上でどのように進めていけばよいのかということの参考にもなるでしょう。

Ensslin, A. (2012). The language of gaming. New York: Palgrave Macmillan.

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C.Bubel & A.Spitz(2013).「The Way to Intercultural Learning Is Through the Stomach:Genre-Based Writing in the EFL Classroom」を読む(C.Gerhardt,M.Frobenius,& S.Ley(編),『Culinary Linguistics:The Chef's Special』,John Benjamins)

科目横断型の英語教育実践が今後進んでいくと思われますが、その1つの参考になるかもしれません。CEFRB1レベルのドイツ人英語学習者に英語のレシピの例をいくつか示し、その言語的特徴をミクロレベルとマクロレベルで検討させた後に、自分の出身地の郷土料理(学習者がなじみのあるその土地の料理)のレシピを英語で作成させる(グループで作成)という実践の報告、及び学習者が作成した英語レシピの分析、が中心となる論文です。

Bubel, C., & Spitz, A. (2013). The way to intercultural learning is through the stomach: Genre-based writing in the EFL classroom. In C. Gerhardt, M. Frobenius, & S. Ley (Eds.), Culinary linguistics: The chef's special (pp. 157-187). Amsterdam: John Benjamins.

概要

著者らは、レシピはその言語だけでなく、それを伝達すること、料理を作成するまえの準備行為、すべてが文化的実践行為であり、したがって自身の文化の料理レシピを他言語で表現することは文化的翻訳(cultural translation)であると考えています。このような前提に立っているため、レシピ翻訳は異文化間学習に非常に有益な活動になると考えられています。

次に、著者らはレシピの言語研究の流れを簡単に整理した後、英語のレシピの言語的特徴をマクロレベル(内容の展開)とミクロレベル(文法的特徴及び語彙的特徴)に分けて整理します。詳しい内容はこの記事では省略しますが、自然な英語でレシピを作らせるには特にミクロレベルで標準英語とは少し違った言い方(冠詞や前置詞の使い方、主語の省略など)が必要になることがよく分かります。英語レシピの言語的特徴として重要なポイントが列挙されているので、非常に勉強になります。

最後に、著者らは学習者が作成した英語のレシピの言語的特徴を分析しています。学習者はマクロレベルでは見本のレシピ通りに作成できていたそうです。しかしながら、ミクロレベルでは、うまく英語のレシピの言い方を再現できているケースもあれば、そうではないものも見られたとのことです。うまく再現できなかった理由としては、主に母語の干渉(ドイツ語のレシピの表現方法を転移させてしまったケース)、特定の構造の過剰一般化、英語ライティングの授業の影響、が指摘されていました。英語ライティングの授業の影響について少し補足をしておきます。実はレシピでは類似した構造ないしは表現が反復される傾向があるのですが、通常のライティングでは同じ表現を繰り返すと稚拙な文章になってしまいます。その結果として、今回の実践では、学習者は表現にバリエーションをつけようとした結果、英語レシピの表現と乖離してしまったのではないかということが指摘されていました。この点から、著者らはジャンルに応じたライティングの必要性を強く指摘しています。

この論文は、異文化理解教育とライティングに大きな示唆を与える論文だと思います。また家庭科と英語科を横断するような実践をする場合には必読の論文と言えると思います。

なお、この論文集の他の論文では、料理ショーのトークの分析などもされていて、非常に面白い論文が目白押しです。

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2020年6月 9日 (火)

M.Siefkes(2017).「Perceptual Qualities of Literary Style」を読む(『Scientific Study of Literature』)

著者は、文体とは結局読者による知覚や評価に依存するところが大きいという立場から、一般的な読者(母語話者)は、異なる潮流の作品(モダニズム作品とポストモダニズム作品)の文体の違いをどのように知覚しているのかが調査されています。

なお、調査をするにあたって、著者は文体について以下のように定義を行っています。

"Style consists in all specific characteristics in writing or speech of a person, or a group of persons; styles can be investigated on a continuum of scale, from individuals to large groups, where larger groups will usually have fewer characteristics in common. Although style influences measurable qualities of texts (such as sentence length, size of vocabulary, or complexity of syntax), it is experienced by readers in the form of perceptual qualities, such as clarity or elegance." (p. 54, emphasis in original)

Siefkes, M. (2017). Perceptual qualities of literary style. Scientific Study of Literature, 7 (1), 52-78.

概要                                                                                                                                      

調査の詳細は省略しますが、クラウドソーシングで募集した英語母語話者649名に対して、モダニズム作品(Ernest HemingwayA Farewell to ArmsAldous HuxleyAfter Many a Summer)とポストモダニズム作品(Bret Easton EllisAmerican PsychoDouglas CouplandMicroserfs)を1つずつ読ませて、semantic scalesに回答させることで調査が行われています。この調査で得られた結果は以下の通りです。

  • モダニズム作品は、coherentclearsimpleformalrationalseriousと評価される一方、ポストモダニズム作品についてはincoherentornamentalcomplexcolloquialemotionalplayfulと評価され、あるジャンルの作品はある一定の文体で知覚されるようである。
  • 上記の結果は、作品を読む際に作品の文体や機能に着目させることを促した場合と、情意面や読者の個人経験に着目させることを促した場合とで、変化は見られなかった(つまり、このような方向付けよりもジャンルの違いの方が読者の文体知覚の違いに大きく影響を与えていた)
  • ジャンルの違いに関わらず、coherentまたはplayfulと知覚される作品は、読者の好みの度合いも高かった。
  • 特にincoherent vs. coherentformal vs. colloquialというsemantic scaleは、2ジャンルの文体の違いの知覚をうまく言い当てているようであった。

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2020年6月 5日 (金)

A.M.Jacobs,S.Schuster,S.Xue & J.Lüdtke(2017).「What’s in the Brain That Ink May Character...:A Quantitative Narrative Analysis of Shakespeare’s 154 Sonnets for Use in (Neuro-)Cognitive Poetics」を読む(『Scientific Study of Literature』)

シェイクスピアの154のソネットを分析対象として、これを今後量的な観点から様々に研究していくための予備調査や論考がなされています。量的研究の有効性、さらに機械学習との組み合わせへの期待などが議論されています。なお、著者らはこれまでの文学批評を否定しているわけではなく、むしろこれらの先行研究と相補的であると考えています。

Jacobs, A. M., Schuster, S., Xue, S., & Lüdtke, J. (2017). What’s in the brain that ink may character...:A quantitative narrative analysis of Shakespeare’s 154 sonnets for use in (Neuro-)cognitive poetics. Scientific Study of Literature, 7 (1), 4-51.

概要

本研究で示されている事柄を以下に列挙しておきます。調査方法に関する詳細等は本論文を直接ご参照ください。

  • より長い文章を対象に使用されてきたCoh-matrixといったreadabilityの指標はシェイクスピアのソネットに対しても使用できそうである
  • すでに先行研究でsurprisalという要素(読者の予想に反したような語の使用)は読解時間や眼球の動き、N400という事象関連電位の発生と関係があることが知られているが、シェイクスピアのソネットにおいても、この値が大きくなると読みにくくなり、ナラティブ性も低下し、さらにテクストの一貫性も下がるようであった。
  • ただし、surprisalの値が大きいソネットは、統語が単純で、具体的な内容の単語が多く用いられていた。上記2点目とトレードオフの関係になっているのかもしれない(テクストがあまりにも難しくなりすぎることを避けている可能性がある)。ただし、これはシェイクスピアのソネットだけに見られる特徴なのかどうかは今後の研究で判断されなければならない。
  • シェイクスピアのソネットは大きくyoung manをテーマとした作品群と、the dark ladyをテーマとした作品群に分かれ、後者の作品群は前者の作品群よりもマイナスのムードの反応を誘発するようである。
  • ソネットのthematic richness indexの値が高ければ高いほど、読者はその作品を好み、肯定的なムードの反応をする傾向がある
  • Semantic association potentialの値が高い作品は好まれる傾向があり、surprisalが低く、かつ読みやすさが高くなる傾向がある
  • 各ソネットにおいて、一般的には作品が進むにつれて簡単になっていく(徐々にナラティブ的になり、統語が単純になり、結束性が高まり、surprisalが低くなり、semantic associationの数が減り、新出語の数が減る)。ただし、もう少し細かく見ると、第2連は第1連より難しかったり、第3連より簡単だったりするケースも見られた。
  • これまでに得られた量的なデータを使って機械学習を行うと、ソネットを大きくyoung manをテーマとした作品群と、the dark ladyをテーマとした作品群に分けることができた。このように、量的研究と機械学習を結びつけることは文学研究に有益に資すると思われる。

また、著者はこのような量的な研究は様々な予測に役立てたり、詩の分類、作品の比較、作品内の構造分析(連同士の比較など)に役立てることができるのではないかとしています。一例として、著者らの研究モデル(Neurocognitive Poetics Model)では、surprisalforegrounding)が高いソネット、行、語は、好まれ、眼球のサッカードが小さくなり、眼球の静止時間が長くなることが分かっているそうで、近年短編小説でも同じ傾向が確認されたとのことです。シェイクスピアのソネットでも同じことが生じるのかどうか、といった研究課題の設定が示されていました。

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2020年5月30日 (土)

F.Parente,K.Conklin,J.Guy,G.Carrol,& R.Scott(2019).「Reader Expertise and the Literary Significance of Small-scale Textual Features in Prose Fiction」を読む(『Scientific Study of Literature』)

アイトラッキングを使って、英語母語話者(英文学を専攻する学部生、大学院生、理系科目を専攻する学生)が語彙や句読点に注意が向くかどうかが調査されています。Charles DickensOliver TwistHenry JamesThe Portrait of a Ladyそれぞれには2つのバージョンがあり、バージョン間で書き換えが起こっている部分を使用して、読解中にその書き換えに気づくかどうかが調査されています(変化が起こっていない箇所もダミーとして使用されています)。調査は2つ報告されており、1つ目のバージョンを読む段階で「2つ目のバージョンに違いがあればどこが違うか報告する」という課題を知っている状態で2つ目のバージョンの文を読む場合と、このことを事前に知らないまま2つ目のバージョンを読む場合の2つが調べられています。

Parente, F., Conklin, K., Guy, J., Carrol, G., & Scott, R. (2019). Reader expertise and the literary significance of small-scale textual features in prose fiction. Scientific Study of Literature, 9 (1), 3-33.

概要

調査方法などの詳細はこの記事では省略して、本調査で示された主な結果のみまとめておきます。

  1. 読者は語彙の変化の方が句読点の変化よりもよく気づき、1つ目と2つ目のバージョンを提示する時間的間隔が長くなってもこのことは変わらない(E. E. Cummingsなどを見れば分かるように、句読点の使用も創造性と関わることが文体論や文学批評で示されていますが、これらの文学的価値は一般的にはあまり知られておらず、重要視もされていないのかもしれません)。
  2. 2つ目のバージョンを読む際にその処理時間が長くなればなるほどその反応の正確性が増す。
  3. 句読点の書き換えを伴う文については、読者はその文全体を読み直していた(どこかが違うという感覚は持っているものの、どこが違っているのかがなかなか判断がつかない状態と考えられます)。結果として、語彙の場合よりも読解時間が長くなったと考えられる。
  4. 語彙の違いについては、読者は書き換えられた部分のみを注視する傾向がある。2つ目のバージョンの読解時間が長くなる場合には、書き換えられた語から視線を動かさない傾向があり、意味理解をしているようである(単語は意味解釈に重要な働きをするという意識の表れと考えられる)。
  5. 句読点の書き換えは、読者にはあまり重要視されていないようであった。
  6. 本研究で明らかになったことは、読者の背景(専門分野)の違いによっては影響を受けなかった。つまり、専門知識の有無はこれらのことにあまり影響を与えていないようだった。ただ、ひょっとしたら英文学専攻の学生はまだ句読点の解釈といった技能を身に付けていないだけ、あるいはそのような技能は持っているものの今回の調査ではその技能を発揮できなかっただけ、といった可能性もあるので、専門知識の影響については継続調査が必要である。

 

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2020年5月26日 (火)

R.A.Zwaan(1996).「How Empirical Is the Empirical Study of Literature?」を読む(H.Hendrix,J.Kloek,S.Levie,& W.van Peer(編),『The Search for a New Alphabet: Literary Studies in a Changing World』,John Benjamins)

文学の経験的研究がある程度形になってきた1990年代に一部の研究者に認識されていた問題点が議論されています。主に2点挙げられていますが、今現在でもこれらは重要な課題として日々研究者によって取り組まれていると言えます。また、著者がなぜ文学読解を実証的に調査しようとしたのか、その際にどのような葛藤があったのか、といったことがかなり赤裸々に語られています。

Zwaan, R. A. (1996). How empirical is the empirical study of literature? In H. Hendrix, J. Kloek, S. Levie, & W. van Peer (Eds.), The search for a new alphabet: Literary studies in a changing world (pp. 321-326). Amsterdam: John Benjamins.

概要

著者は、文学の経験的研究が今後も存続していくためには、以下の2つの問題に取り組まなければならないとしています。

  • empirical」という語をもっと真剣に考えなければならない。
  • 文学の経験的研究をフォルマリズム、構造主義、読者反応理論の延長線上にとらえて研究しなければならない。

2点目については、フォルマリズムなどで指摘されてきた理論的な概念が実際にどのように文学読解の中で影響を与えるかなど、実証的な調査が現在も行われています。

1点目については、依然として文学の経験的研究で問題点として指摘される事柄です。著者は、empiricalと名乗っておきながら、メタ理論的な議論ばかりに終始している研究者もいるとのことです(文学の経験的研究の中心となるIGELという学会には、少なくともそのようなメタ理論的な研究者と本当の意味で実証的な研究者の2派がいると述べられています)。そのような研究者は本当の意味で実証的な研究に対して、あたかもポスト構造主義の研究者が文学の経験的研究に対して向けるのと同じような言葉で、批判の言葉を向けていることを問題視しています。ちなみに、この論文を書いた著者は本当の意味での実証的な研究者ですが、彼が学会で経験した様々な理不尽がかなりはっきりと語られています。文学読解を実証的に研究することへのアレルギー反応は、文学の経験的研究内部でも大変強いものがあったようです。

著者は最後に、今後の研究について次のような提言をおこなっています。

"What I think we need is (1) a stronger focus on rigorous empirical studies of literary processes (for instance, in comprehension, production, reviewing, dissemination, and so on) and (2) more efforts to theoretically demonstrate the continuity in literary research from Formalism and Structuralism to empirical research." (pp. 325-326)

 

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2020年5月23日 (土)

R.A.Jacobs(1973).『Studies in Language』第9章を読む(「Transformational Analysis and the Study of Style」, Xerox College Publishing)

変形生成文法標準理論ないしは生成意味論の立場から、文学テクストの統語レベルの文体的特徴及びその意味的効果が検討されています。現在の研究には少し当てはまらなくなってきている主張や理論もありますが、文体と意味の関係について面白い考え方が提示されており、参考になります。

Jacobs, R. A. (1973). Studies in language. Lexington, MA: Xerox College Publishing.

概要

著者によると、文学批評は統語にはあまり注意を払わず、語彙レベルの分析から一気に作品テーマの議論にジャンプしてしまうとして批判をしています(その一例として、Northrop Fryeの研究が紹介されています)。著者は、本章を通して、以下のことを示したいとしています。

"It is our contention that an awareness of the syntactic choices available to the writer and knowledge of the particular repercussions of each choice should play an important, though not necessarily crucial, role in the critical examination of literary language." (pp. 87-88)

著者は、basic meaningsurface meaningという2つの概念を提示し、議論を進めています。前者は、例えば出来事を受動態で表現しようと能動態で表現しようと変わらず伝達される意味内容のことを指し、後者はこれらの書き換え(つまり変形操作)によって生じる意味("the extra dimension of meaning communicated by the style of the writer" (p. 91))に該当します。ちなみに、surface meaningという名称ですが、文体という表層構造に起因するという理由からこのように名付けられています(現在の研究でこの概念を使うと少し語弊があるかもしれません)。著者は、これまでの議論を受けて以下のように述べています。

"Now a consideration of the stylistic effects of particular surface forms will in a transformational analysis involve consideration of at least some of the transformations relating what we have labeled as basic meaning to the alternative surface meaning." (p. 92)

"Style is the result of linguistic choice and surface meaning is the result of style." (p. 97)

Geoffrey ChaucerThe Canterbury Tales("The General Prologue")とT. S. Eliotの "The Waste Land" の比較、John UpdikeThe Poorhouse Fairの書き換え、James BaldwinNobody Knows My Nameの書き換えを例として、passive transformationrelative clause reduction transformationindefinite deletion transformationpassive deletion transformationagent deletion transformationpseudo-cleft sentence transformationといった変形規則がどのようなsurface meaning(及び文学的効果)をもたらしているかが分析されています。また、Baldwinの作品については、作者が狙った効果を変形操作が実現できていない箇所が1つ指摘されており、大変面白いです。

 

 

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